第3章 2-3 奮戦
「あんた、ガリアの力は水の上を歩くんでしょ? そんなのあいつの力で弱められたって関係ないはず。つまり、あんたがトドメよ。あのばかみたいにでっかい胸にその銛を叩き込んでやるのよ。あんた、その網であいつの足を止めて。隙はあたしが作るから……行くわよお!」
二人へ心の準備をする間も与えず、マレッティが光輪を振りまきながら直に踊りかかった。リングスライサーが回り、ギロアを襲う。剣身にも細かいリングがびっしりと並んで、一斉に回った。
「とぉおおおあァ!!」
マレッティの珍しい気合の発声。だが、ほぼ二足一刀の間合いに入ったとたん、リングの回転が急激に遅くなって、剣も重くなる。
(こいつ……!?)
マレッティが奥歯をかんだ。ギロアのにやついた口元より、太く大きな牙がのぞく。その竜の手が下段から振りかざされ、光輪を破壊しながらマレッティを引き裂いた。
が、引き裂かれたのはぎりぎりその服のみだった。そこで一気に下がりながらも、光輪をぶちまけて目眩ましとする。ギロアが光輪を払っている間に、マレッティは素早く二人の元まで下がった。
「なにしてんのよ、あんたたち!!」
凍りついていた二人、マレッティと入れ代わりで踊りかかる。マレッティは援護にまたも光輪を何十とばらまきにばらまいた。ギロアの特殊な力に、休む暇を与えない。速度を落として漂う光輪を払い落としまくるギロアに対し、機を見計らっていたパジャーラが一気にその投網を開いた。光輪ごと、大きく開いてギロアを見事にからめとる。そのまま絞り上げ、ガリアの力で主戦竜ですら動きを封じるが、そのガリアの力が弱い。ぐいっ、とギロアが網の中より逆に網を絞り、パジャーラは手をひっぱられるかっこうで前のめりに倒れ、そのままギロアにひきずり寄せられた。
「……うわっ、うわああ、うわわわわ!」
網を離すことも忘れ、恐怖でパジャーラ、結晶の地面へ横たわったまま、ただ喚く。そこへニエッタが横から迫って銛をつきたてた。だがそれも、とたんに重くなり、かつ見えない壁のようなものに押し返されて足が止まる。ギロア、パジャーラを網ごと力任せに振り回して、ニエッタへ叩きつけた。二人はもんどりうって転がって、戦意も無くして半泣きになった。こんな竜なんかこの世にいるはずがない、これは夢だという気分だった。
ギロアがパジャーラの網を引き裂いて霧散させる。その瞬間の隙を見計らい、マレッティが光輪をまとった細剣で、真後ろから突きかかった。が、やはり間合いに入った瞬間、いきなりガリアの動きが鈍くなる。尾の先端に突き出る太い毒針がマレッティを襲い、マレッティはそれを避けるのが精一杯で、姿勢を崩して横倒しになった。尾が鞭めいてしなり、毒針が迫ったので、あわてて這って逃げる。
「あっははあ、まるで虫ね、マレッティさんとやら……そっちのお二人は、お話にならないわ。どうするの?」
ギロアが楽しそうに三人をねめまわして間合いを計った。
だが、さすがマレッティ、ギロアがその目線より角を先に三人へそれぞれ向けているのを看破した。角で距離を図り、それからまた見得を切るように首を曲げ、角で空間に何かを描いているような仕草をする。
(……ははあん……さては、あの角が、この特殊な力の元かしら……? なるほど……試してみるかな……)
マレッティ、光輪ではなく光の塊をギロアに投げつけてまた視界を奪い、走りこんで位置を変え、二人と合流した。忌ま忌ましげに眼をこすって、ギロアもまた仕掛けてくると見込み、三人へ角を向け、両手を油断無く下段に開く構えをとる。いや、自ら仕掛けるか……ギロアは機を伺った。
「あんたたち、あの光ってる角をやるわよ」
「えっ、角……!?」
ニエッタが何のことか分からず狼狽した。
しかしマレッティ、何の説明もせずにただ命令する。
「あんた、さっきの網はまだ出るでしょ? 足だけ狙いなさい。足元! 足止めよ。あたしが囮となるから、あんたは、あの角を叩き折るのよ」
「折る……!? だ、だめだよ、さっきもやっぱりガリアは通じない!」
「石でもなんでも使えばいいでしょお!」
マレッティ、もう大きな光輪をひとつ、背中にまとい、間合いを詰めながら真半身となり、細かい光輪を定間隔で投げつけつつ、継ぎ足で接近する。
「なんども同じことを……」
攻撃の機会を観ていたギロア、舌を打ってにらみつけ、後の先で打って出た。がばあっ、と下段から両手を振り上げて光輪を一網打尽として、そのままマレッティへ返す爪を叩きつけて襲いかかる。が、なんとマレッティ、背中の光輪がふわりと浮いて、それと共に宙へ浮き上がってギロアの攻撃を回避した。ギロアは目標が消え、つんのめって長い脚を曲げ、四つんばいのようなかっこうとなって、背中をマレッティにとられた。
が、毒針の尾がマレッティをとらえた。青い毒液を滴らせ、宙のマレッティを襲う!
「なあめんなあ!」
マレッティ、空中で身を捻じりながら、回転の鈍る光輪を剣から出現させ、そのまま尾へ叩きつけた。尾の先端が、毒針ごと切断される!
「ギァア!!」
ギロアがのけ反って悲鳴を上げた。後ろへ着地したマレッティへ怒りの眼をむける。
ここぞとパジャーラ、ガリアを細長い刺し網の形にして、ギロアの長い脚へ飛ばした。錘からまきついて、長く細い両の脛へからみついた。パジャーラが一気に絞ったものだから、ギロアが足元をすくわれ、横倒しになった。
「でかしたわあ!!」