第3章 2-2 発覚
マレッティ、ガリアを発動させる。円舞光輪剣がまばやく光り、周囲の結晶に反射して、急に明るくなった。後ろのニエッタとパジャーラも眼を細める。
「ずいぶんとまあ、おあつらえ向きの場所に入ってくれたのねえ。ところであんた、その後ろの死体が、青竜のダールってやつなのお?」
ギロアの歩が止まった。胡乱げにマレッティを見つめる。
「こたえなさいよお。話せるんでしょ?」
「そうらしいわ……まさか既に死んでるとは思いもよらなかったけど」
思ったより高く愛らしい声がしたので、マレッティはちょっと意表をつかれた。こんなにはっきりと人間ぽく話すバグルスも初めてだ。
「あんた、バグルスなの?」
「そうよ。カルマのなんとかさん。あんたたちがいつもやりあってる、デリナなんかが作ったバグルスとは出来がちがうの。わたしはガラネル様も認めた、完成度92を誇る、はじめて完成度が90を超えたバグルスよ。究極のバグルスなんだから」
牙を剥いた顔がもとに戻り、いつものギロアの調子で片目をつむって見せる。人間など一撃で引きちぎりそうな大きな竜爪はそのままに、その人指し指を口元に当てた。
「デリナ……なんか……?」
マレッティの眼が陰鬱な鈍い光をたたえた。まさかギロア、マレッティがデリナと通じているとは思わない。
「ところでカルマさん、あなたはどうしてバセッタのことを知ってるのかしら? やっぱりアーリーに聴いたの?」
「なんだっていいのよバグルス。いま殺してやるわあ」
「あら、急に恐いこと」
ギロアの眼も赤く光を反射する。三本の角にまで紅い線が現れ、鈍く光った。
「でも……できるのかしら?」
「できるにきまってんでしょおがあ!」
マレッティが細身剣を振りかざし、光輪が乱れ飛ぶ。場が狭いので動きに制限がつくと思われたが、結晶の表面に発射して縦横無尽に飛び回ってギロアを襲った!
「……!?」
息を飲んで固まったのはマレッティだった。まさに蜂のごとく襲いかかる光輪が、ギロアの周囲になるとまるで蝶のようにふわふわと空中に漂いだし、踊りめいた優雅な動きのギロアの竜爪で次々に叩き落とされ、霧散して消える。
「え……」
「おしまい?」
にこり、と笑ってギロア、両手をまた大きく広げたまま下段に構え、額と側頭部の角をゆっくりとマレッティへ向けて首を振って見得を切り、流し目をくれる。明らかにばかにされたと分かったマレッティ、歯ぎしりして倍の数を出しつける。
しかし冷静だった。
直接正面、上方、足元から滑り込ませ、背後と左右の結晶面にも反射させ、さらに洞穴天井の鍾乳石を切って落とした。ギロアがまた両手を軽やかに動かすと光輪はその速度を落とし、容易に払われる。が、上方から落ちてきた鍾乳石はそのまま落ちてきて、ギロアがその気配にあわてて身をよじってよけながら振り向き、竜爪で砕いた。
(ふうん……ガリアを……いや、ガリアの効果を操る力か何か……ってこと? バグルスもあんなになると、そんな変な力を得るのかしら……?)
マレッティに笑みが出る。逆に、ギロアには険しい顔だ。
「どうしたのかしらあ? 手品の種でも見破られたあ? バグルスちゃん」
「ギロアよ」
「バグルスのくせに名前なんて生意気なんだってえの!!」
「うるさいわね、カルマ!」
「マレッティだって何度も云ってるでしょお!」
マレッティ、後ろの二人を向き、
「あんたら、出番よ。三人同時に攻撃してみるわあ」
ニエッタがひきつった声を発した。パジャーラは固まって息もできない。
「あ、あたしら、バグルスと戦ったことなんか……」
「だれだって最初は無いのよお」
「そんな……」
しかし、ギロアが大きな殺気に満ちた紅い眼をむき、ひきつった笑顔で二人に向かって声をかける。
「あなたたち、シロンが云ってたバーレスのニエッタとパジャーラじゃない? シロンからいくらもらったの? その分のお仕事は、まだ終わってないのではなくって?」
「はあ……?」
マレッティ、ギロンよりおそろしい目つきで二人を振り返った。二人とも、ガタガタと歯を鳴らし、どっと汗をふきだした。
「……フン、あんな連中に近づかれたら、云うこときかなきゃ殺されるものね。過ちと罪は、ここで晴らしなさい」
「え……許してくれのか? マレッティ……」
「働き次第でしょお?」
マレッティの不気味な笑顔に、歯を食いしばり、ニエッタがガリア、竜水銛を出す。パジャーラもグビグビと喉を鳴らして、小鎖連環竜捕投網を投擲に構えた。
「あらあら……裏切り者は、やっぱりまた裏切るのね。いいわ。三人同時に来てみなさい。あたしがどうして屈強なガリア遣い達を従えていたか……教えてあげる」
ギロアが長い脚を大きく広げ、構えをさらに低くする。大きな竜爪手は軽く地面へ着くか着かないかで間合いをとった。まるで獲物にとびかかる寸前だ。尾がサソリめいて反り返った。角に浮かぶ紅い光の線が明滅する。
「どうせ、ガリアの効果を薄めるような、よくわかんない特殊な力をダールから与えられてるんだわ……そんな力を使う余裕が無いほど攻めたてるのよ」
マレッティが小声で指示する。ニエッタとパジャーラは、もう死に物狂いでやるしかない。