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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
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第3章 1-3 突入

 「なに? どうしたの?」


 マレッティは円舞光輪剣(えんぶこうりんけん)を出して見せた。ガリアは精神の問題だから、マレッティの心が折れない限りこの細身の剣も折れない。


 「上々だ。明日の朝、コンガルへ向かう」

 「はい!?」

 「やつらに復讐するのだろう?」

 「そ、そうだけど……ちょっと!」


 アーリーは素っ気なく出て行った。マレッティは眼を吊り上げ、声に出さない罵詈雑言を投げつけ、怒りをまずはシロンへ切り換えたのだった。


 その夜は壮行会ならぬ、おやじへ云いつけて少し良いものを用意してもらい、食べ、英気をつけると二人とも早めに休んだ。



 翌朝、ちゃんとニエッタ、パジャーラ、そしてトケトケも港に集まった。さらには、船頭として暁のパーキャスから腕のよい漁師が二人、ついた。


 二艘の高速ディンギー船へ乗りこみ、五人はバーレスを出た。この風なら、夕刻前にはコンガルへ着くと漁師は云った。人数割りは、マレッティ、ニエッタ、パジャーラがやや大きめの船へ、アーリーとトケトケがもう一艘に乗った。初めはコンガル方面に暗雲が立っていたので心配したが、やがてその雲は薄くなってきた。


 順調に進み、昼をすぎて、また雲が濃くなってきた。

 「こら、コンガルは雨かもしれませんぜ!」


 風を操って、漁師がアーリーに云う。しかしそれも、また晴れてきたのだった。

 異変を感じたのは、もうコンガルが見え始めてきたころだった。


 「……竜だ!!」


 緊張して漁師が叫ぶ。アーリーらも、思わず船縁へ手をかけ、半身をおこした。しかし、数々の魚竜、海トカゲ竜が一目散にすれ違って逆方向に進んで行く。そして、海の主戦竜である大海蛇竜や大海トカゲ竜までもまじりだし、二艘を無視して何かから逃げ出しているように思えた。さらに、上空を無数の海鳥が同じく、埋めつくして逆方向へ飛んで行く。


 「どういうことだ!?」

 アーリーも思わず振り返った。

 「あ、あれを見て下せえ!」


 島の港の入り口付近に、岩山が海中から盛り上がって見えた。それが、巨大な大海坊主竜だとわかるまで、ややしばらくかかった。常識外の大きさだ。


 「じょ、じょ、どど、ど」


 漁師も言葉にならない。さらに、アーリーとマレッティは上空を大烏竜が飛んでいるのをめざとく見つけた。雲間をグルグル回って、何かを探しているように見えたが、やがて南東の方角へ飛び去った。背中に誰か乗っているのも見えた。尾と角も見える。バグルスか!? とすれば、あれがギロアだろう。


 「マレッティ、追え!!」


 アーリーが狭い船で立ち上がって指示をだした。ぐらりと船が揺れ、漁師があわててバランスを直す。


 「がってえん! ちょっと、あの竜を追うのよ!! 早く、方向転換しなさいってばあ!!」


 大きな浮環をつけたマレッティが右手を振り回し、船頭の漁師へ回頭を指示する。あわてて空を見ながらロープを操り帆の角度を変え、舵をきってディンギーは波を切り裂いてターンをかけた。大きく傾いて、海面が眼前に迫ってマレッティは船縁へしがみつくも、同じく上空の大烏は見失わない。ニエッタとパジャーラは何が起きたのか理解できず、声も無かった。


 急速に離れて行くマレッティ艇を見やり、トケトケは超特大の大海坊主竜へ眼をむけた。アーリーも、厳しく竜の黒々とした背中を見つめる。竜は海底から仁王立ちとなり、長く太い尾を波を割って振り上げ、轟然と吠えつけていた。空気がつんざき、雲が砕けるかと思うほどだった。海面から上だけで三百キュルト(約三十メートル)は余裕である。あんな生き物が存在するのか。顔と思しき小山の先端には、ただ口だけが開き、目は無いように見える。全体にずんぐりとして、頭が異様に大きい。海坊主たる所以だ。


 「どうするわけ!? ダールさん!」

 「もちろん、倒す。そのために来た!」


 あまりに当然のように云うものだから、トケトケは一瞬、あっけにとられ、次に笑ってしまった。

 「いいわ。あたしは何をすればいいわけ!?」


 「お前の矢が、あの岩みたいな皮を通すとは思えん。眼か、口の中でも狙ってもらおうか」

 「眼なんてあるわけ? あいつ」

 「眼と思しきものはある……」


 「わかったわけ。あの丘の上に陣取って援護するから。なんとか上陸しよう!」

 「聴いた通りだ、頼んだぞ!」


 若い漁師は涙目で引きつって、

 「自棄糞(ヤケクソ)でさあ!! どうにでもなれってんだあ!! 祈っててくだせえよお!!」


 帆の角度を変え、さらに速度を上げて竜の足元へつっこんだ。回り込むのではなく、竜の足元をすり抜けるというのだ。


 「やるではないか!」


 アーリーも興奮した。切り波をたて、一直線にディンギーは竜へ向けてつっこんだ。波を越えてジャンプし、着水して揺れながらも、そのまま針のように竜の脚へ向けて突き進む。竜の体長に匹敵……三百キュルトはあろう巨大な尾が海を割って持ち上がったが、かまわずつっこんだ。滝めいた海水を受けながら、船は突き進む。竜はゆっくりと歩きながら、港へ上陸しようとしていた。コンガルの住民が慌てふためいて、逃げ出しているのがわかった。波は高波となって港へ押し寄せ、竜を追い越したディンギーがそれに乗ってそのまま高い位置から港へ突進する。


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