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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
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第3章 1-1 暁のパーキャス

 1

 

 アーリーが「(あけ)のパーキャス」という組織を知ったのは、竜退治の出張所でのことだった。マレッティはまだ横になっているし、情報を集めに日参していた。そこで、一人の三十半ばほどの男と出会ったのだ。


 男は、アーリーを待っていたと云った。

 「あなたが! ……サラティスの……カルマの……ダール……の……」


 男は、話には聞いていたが、じっさい見るとその迫力に圧倒され、最後は声が聴こえなくなった。背が高く筋肉質で無精髭の、いかにも強面の漁師だったが、アーリーに比べればそこらの小僧とさして代わりは無かった。


 「アーリーだ」


 アーリーが男より大きな手で、しっかりと握手をした。このまま手が握りつぶされると男は思った。


 「ウベールです。ウ、ウベールといいます」

 男は二度、云った。


 「本名は、ウベルロークですが、みんな、ウベールと……」

 アーリーが無言で凝視していたので、ウベールは咳払いをし、


 「ここではなんですから、集会所へ……仲間が待っています。どうか、お話を聞いてほしいのです」


 「竜退治の依頼なら、紹介所を通せ」

 「いえ、通してます。な、な」


 ウベールは、職員へ作り笑顔で確認した。サラティスから派遣されている中年の男性職員が、アーリーに睨みつけられ、必死にうなずいた。アーリーは別に睨んでいるつもりはなかったが、職員にとってはカルマがここにいるというだけで、息が止まりそうだった。


 「わかった。向かおう」

 ウベール、まずは安心してほっと息をついた。


 そもそもそれほど大きくない町である。集会所とやらは、退治出張所からそう遠くはなかった。漁の道具を入れている物置を片づけたような、海岸沿いの古びた建物だった。アーリーが背をかがめて入り口をくぐると、中で待っていた十数人ほどの男たちは、一様にどよめいた。みな同じような年頃の者たちで、中には若い者もいたが、少年、子どもはいなかった。いわゆる青年部というようなものだ。


 「(あけ)のパーキャスへようこそ!」


 改めてウベールが代表してアーリーと握手をした。が、アーリーはそのなんとやらという組織には、何の興味も無かった。


 アーリーに大きめの椅子を用意し、十人と少しがその前面にめいめい並んで椅子へ座った。


 アーリーは長く太い馬みたいな筋肉質の脚を組み、細い肘掛けに肩肘をついて頬杖とし、カルマの塔のいつもの瞑想のポーズとなると、重々しく口を開いた。


 「バグルス退治か?」

 ウベールはアーリーの威容に見とれていたが、ややあって後ろから突つかれ、口を開いた。


 「は、はい、そうです! せ、せっかく、サラティスのカルマの方々がお見えになっている機会を逃すわけにはまいりません! あの、ギロアってやつは、ガリア遣いなんかじゃないです! き、きっと、バグルスってやつで!」


 「なぜ、わかる」

 「なぜって……」

 ウベールの後ろにいた一人が、やおら立ち上がった。


 「見たんでさあ、あいつがたくさんの竜と向かって、なにやら話してるのを……海の上に立って……こう……長い尾と、角がありました。頭に、こう……」


 男は、自分の額や側頭部に、角が生えている様子の動作をした。

 「竜と話をするやつなんざ、バグルスにきまってまさあ」

 「ふうむ……」


 アーリーが眼をつむった。が、すぐに開いて、その紅く細い竜の瞳で一同をねめまわした。大の男たち、それも若い屈強な漁師達が、背筋から震え上がる。


 「いいだろう。どうせ、結着をつけなくてはならないと思っていたところだ」

 男たちが、歓喜にわいた。


 「だが、カルマの報酬は高いぞ。お前達に払えるのか?」

 「払えますとも!」

 「ほう……」


 「さいきんは、昔みてえなニシン御殿だ、タラ御殿だを建てるという風潮でもねえし、いつ竜のせいで魚がとれなくなるかもしれねえから、(あけ)のパーキャスで貯め込んでるんで。カスタ金貨の二百や、三百は余裕で」


 「なるほど」


 「それに、あのバグルスめいた女や、ガリア遣いどもがいなくなったら、殴り込んで勝負つけてやりますよ! あいつらの縄張りを奪って、また稼げばいい!」


 「おれたち、パーキャスを元の姿に戻したいのです!」

 ウベールが力説する。(あけ)のパーキャスとは、いわゆる、バーレスの保守派の青年団というものだ。


 「コンガルの人々も、パーキャスの民……元は仲間ではないのか?」

 「とんでもねえ!!」

 何人かが立ち上がって、同時に叫んだ。興奮し、紅潮している。


 「十年も前に袂を別った連中でさ! あいつら竜をけしかけて、おれたちの仲間や身内を何人も殺してやがる! この手で連中をぶっ殺して、仇を討つ権利があるんでさ!」

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