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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第1部「轟鳴の救世者」
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第1章 3-4 雷撃

 カンナがその衝撃と、反射的に避けたために地面へ横になった。


 大理石じみて真っ白いバグルスは、ボロ布をつなぎ合わせた服ともいえぬものを着込み、マントのようにこれもボロボロの長い布をはおって、稲妻と剣に弾かれた右手をじっと見つめていた。あれだけ乾いていたのに、涙と鼻水が流れ落ち、カンナは気力を振り絞ってなんとか立ち上がって、両手で黒剣を構えた。ウガマールで最低限の戦闘の訓練は受けている。


 「コレヲ 見ルシュ……」


 バグルスがその白い掌をカンナへ向けた。カンナは意味が分からなかったが、自然と注目する。火傷と、裂傷が二筋……一つは治りかけで、一つはいまついた傷だ。赤い血がタラタラと滴っている。


 「オマエノ ガリア……ソノ黒イ剣ノ傷ハ トテモ深ク ナオリガオソイシュ……オマエハ アノオカタノ イウトオリ ワレラ(ガル)ノ……テンテキ……シュ……シュ……」


 確かにサラティス語を話しているのだが、その口や歯、舌の形からか、どうしても空気が漏れてよく判別できない。サラティス語にまだ完全に馴染んでいない耳には、聞き取りにくい。


 なにより、自分の心臓の鼓動が頭の中にガンガンと響いている。息が荒くなる。


 バグルスは傷ついた右手を握り、人指し指をカンナへつきつけ、ここだけはっきりと囁いた。


 「オマエハ殺ス……マダ……“カス”ノウチニ……」

 「“カス”!?」


 カンナの頭で何か切れた。それが本当に脳の血管だったとしても、カンナはそのまま動いただろう。


 「……わたし……は……カス……でも……ゴミでも……役立たずでも期待ハズレでも無いんだああ!!」


 瞬間、眼をむいてバグルスへ踊りかかる。へっぴり腰であったが、獣みたいな雄叫びにバグルスが怯んで下がったほどだった。


 「わあああああ!」


 踏み込んで黒剣を振りまくった。まともな鋼の剣ならばこの細腕でこのように振り回せるはずも無いが、ガリアはむしろ剣が自ら動いてカンナを誘導する。


 「シュウウゥ!!」


 鋭く吐息をもらし、鱗が硬質化した刃を手鉤のように手の甲から出して、バグルスが応戦する。ガスッ、と鈍い音がして、カンナはその鉤を一撃で叩き切った。


 「ギィィ!」


 身を沈め、カンナより小柄なバグルスがその尾で足払いをかける。カンナはひっくり返って、地面へ叩きつけられた。受け身をとっていないので、まともに身体を強打し、衝撃で息が止まって動けなくなった。


 すかさず馬乗りになってバグルスがその牙を突きたてるも、メガネが顔にずれてひっかかったまま、遮二無二カンナは黒剣を振り回した。柄頭がバグルスの脇腹へ当たり、バババ! と音を立ててスパークが弾ける。ただの柄当てならば意にも介さないほどの打撃だが、凶悪的な感電にバグルスは伸び上がって横腹を押さえて転がり、痙攣した。これまで幾人かのバスクを殺してきたこのバグルスだったが、このような強烈な攻撃はくらったことが無い。神経を引き裂いたような脳天まで貫く痺れと痛みで、口から泡が出た。眼がくらくらする。なんとか立ち上がり、カンナへ対峙した。


 まだそこへ一気に止めを刺せないのが、カンナの実力だった。互いに距離をとって、荒い息でにらみ合う。


 しばらくそのままでいた。逃げようと思えばバグルスはこのまま逃げることができたが、逃げなかった。意地でもカンナを殺す気だ。カンナも、恐怖よりも殺意が大きかった。歯が鳴って、眼が異様に見開いてくる。


 「殺す……倒す……竜は倒す……竜はぜんっぶ殺す……」

 「……コッチノ セリフダ!!」


 硬質な鱗がざわざわと盛り上がり、バグルスの両手が膨れ上がって、それぞれ指が大きな手刀へ変形し、竜の手と化す。それを振りかざし、カンナへ踊りかかった。カンナはそれを全て黒剣で受けた。受けるたびに火花が散り、バグルスの手を焼いて行く。


 「ええいッ!」

 そればかりか後の先で反撃し、剣先が焦げた指を一本、落とした。

 「ギュウッ……」


 喉から音をしぼり出してたまらずバグルスが下がり、カンナの追撃。バグルスは、大振りの剣打をかわしつつ、体勢が崩れたカンナの顔面めがけて爪で攻撃したが、カンナが黒剣をその動きに合わせて突き出し、バグルスは右手を剣に貫かれた。さらに、高圧電流がほとばしって流れこむ。右腕の肉が裂けて焼け焦げ、血が蒸発して煙が吹き出た。バグルスが悲鳴を上げて下がった。


 カンナは荒く息をついたまま、剣を下段に構えた。カンナの集中がその限界を超え始めた。血液の底から電流が沸き起こる。黒剣が共鳴してヴ、ヴ、ヴヴ……と音を出して震え始めた。その音にバグルスが耳を押さえる。不快なのだ。


 そして帯電がジリジリと空気を振動させる。バグルスはさらに距離をあけ、つられて一気に飛びかかったカンナめがけ、いきなりその白い後ろ髪の中から蜂のような小さな竜を数匹出した。蜂といっても人の指ほどもある。野太い羽音を出して、小竜がカンナへ迫った。尾に毒針を有している。カンナは本能で恐怖を覚え、頭を抱えつつ黒剣を振り回し、小竜を払った。稲妻が網状にほとばしって、次々に小竜は焼け焦げて地面へ落ちた。


 その隙を逃さず、バグルスが突進した。

 一撃でその細首を掻っ切り、絶命させる間合いだった。


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