表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
109/674

第2章 6-3 メスト敗北

 ブッ、ゴオン!! 余韻の音響を残し、衝撃波と衝撃波が正面からぶつかりあい、弾けた。


 「なんのぉ!!」


 マウーラは負けじと楯を突きつけた。続けて衝撃波を放つ。ご、ご、ゴン! 鈍い金属音が轟く。が、カンナの押し返す連続した音の衝撃は、言語を絶する連打となってマウーラを襲った。耳をつんざく重低音と重低音のトレモロが、周囲を圧した。


 「う、う、ぐ……!!」

 マウーラの右腕と体が持たない。

 「こいつめが!!」


 ガリアの限界、精神の限界まで力を解放する。しかし、心では負けずとも、肉体が持たなかった。


 楯が押し込まれる。マウーラは懸命に耐えたが、ついに楯が裏返ってマウーラの肘は捩じれ、骨をむき出しにしてひしゃげて折れた。そのまま、楯ごと肘から千切れてもってゆかれる。


 それでも、左の実剣で踊りかかった。


 そのマウーラを真正面から雷撃が襲った。耳をつんざく轟音。閃光、衝撃波。焼け焦げ、煙を上げ、一撃でマウーラは倒れ伏し、絶命した。


 そのカンナの後頭部めがけ、直接シロンが花弁紋硝子状氷砕棍(かべんもんがらすじょうひょうさいこん)を叩きつける。先端を飛ばすだけではだめだ。間が遠いし、速度も遅い。軌道も単純であり、また打ち返されては意味がない。間合いに入って、直に頭蓋を凍結粉砕する!


 カンナは振り返り、黒剣を振りかざそうとしたが、まだ剣が重く右手を戒めた。マウーラが死んで、その力は失われたはずだが。


 いや、マウーラはまだ生きていた! 肘から千切れ飛んだ右腕にはまだガリアが! 黒こげのまま、瀕死のまま、まだ精神は生きている!


 だがカンナ、もはや黒剣を放り捨て、両手に球電をまとうとシロンの戦棍を両手で掴んでとめたではないか!!


 「こ……や、つ……!!」


 シロンの極低温と、カンナの超電熱が鎬を削る。プキュン、プキュンと空気を引き裂く独特の音がして、ガリアとガリアが死闘を演じる。シロンは歯を食いしばり、凍結力を限界まで引き出す。カンナも、目の色がさらに光り輝いた。


 「貴様……なぜそこまで……竜を憎む……!!」


 「竜は……ぜんぶ殺す……ぜんぶ殺す……!! 殺してやる……殺してやる……殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるううううーッ!! こおおおろしてええええあああやああああるるるぁああああ!!」


 「クアア……!」


 プラズマが逆巻き、電熱が膨れ上がって、カンナはシロンの凍結を完全に握りつぶした。そのまま、戦棍の先端をも音を立てて砕き、バラバラにする。そして衝撃波でシロンを吹き飛ばした。


 転がって尻餅をつき、シロンが残った柄の部分を振り上げた。


 「こ、こ、この化物があ!」

 「竜につくやつは、みんな殺してやるんだあああ!!」


 カンナが鬼女めいて三つ編みのほどけた髪を振り乱し、稲妻をふりまいて、シロンめがけて飛びかかった。


 かに見えたが、ぴたりと、その動きが止まる。


 振り返ると、丘から見える漁港の向こうの海面に、黒々とした岩山が出現していた。それがゆっくりと頭をもたげ、高波が発生して港に流れ込んでいる。その、海面から上だけで高さ三百キュルト(約三十メートルほど)はある巨大な塊は、長く太い尾を海からもたげ、腕のようなものも見えた。さらには、辺りを圧倒する咆哮で天地を揺るがした。


 「…………」


 カンナは、半ば呆然としてそれをみつめた。なんという巨大な竜なのか。大王火竜(だいおうひりゅう)に匹敵する……いやそれ以上の超特大の大海坊主竜(おおうみぼうずりゅう)だ。逃げ出そうと家族を連れ、港からやっと出港したディンギー船が、その高波に襲われて次々に転覆する。


 (あ……あれは……)


 シロンも目を見張る。あれは、アーリー達をカウベニーの入り江で水攻めにした海坊主だった。ギロアが、あれを再び呼んだのだ。


 カンナ、シロンを無視して一目散に丘を走って下りた。

 「……助かった……!!」


 シロンはガリアも消えて、どっと草むらに仰向けとなった。大きく息をつき、ややしばしそのまま雲の合間から濃い秋空を見上げる。


 が、いつまでもそうしてはいられない。


 起き上がって黒焦げのマウーラを確かめると、死んでいた。ヴィーグスは、いまの攻防でかろうじて残っていた足首の一部もどこかへ吹き飛んで、痕跡すらも残っていなかった。


 けっきょく、バルビィは逃げたと判断した。それも正しい。あんなのとまともにやりあうやつは、バカだ。


 シロンは両手を握りしめ、わなわなと震えた。しかし、正面からでは勝てないのはハッキリした。キッとその鋭い眼をまだ光って走っているカンナの背へ向ける。


 「暗殺……か……」


 メストのシロン、本来の仕事をするときだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ