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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
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第2章 6-1 ガリアの戦い

 6


 カンナは視界が真翠に光って、何がなんだか分からなくなった。とにかく竜を殺したい。それだけだった。竜の味方をし、竜と共に生きるこの町の人々も、全て殺してしまわなくてはならない。とにかく、それだけだった。殺しの決意に心が満たされていた。


 「竜は殺す……竜は殺してやる……竜と生きる人間も……ぜんぶ殺す……」


 その手には、自然とガリア「雷紋黒曜共鳴剣(らいもんこくようきょうめいけん)」があって、既に帯電していた。しかし、敵もいないのに、剣は何かと共鳴していた。丘をゆったりと下って、町をめざす。雨がひどくなってきた。雷雲が低く迫り、急激に稲妻も地上へ近づく。


 ヴヴヴ、ヴヴヴヴ……剣が血を求めて唸る。竜の血液を求めて。急激にその唸りが高まった。


 「うあああ!!」


 やおら、振り返って何かを剣で打った。ズン、と低音が鳴って閃光がはしり、火花が散って、瞬間的に雨が凍結し、爆発する。シロンのガリア「花弁紋硝子状氷砕棍(かべんもんがらすじょうひょうさいこん)」の先端が飛んできたが、黒剣に打ち返されたのだ。


 「なんだと!」


 正確には、その音の衝撃波動と電磁障壁で打ち返したのである。デリナの火球ですらはね返したものだ。とにかく、シロンは自分のガリアが打ち返されたことなど初めてだったので、さすがにそれ以上近づくのを躊躇した。


 「私が足止めする、マウーラは回り込んで隙をみて撃ち込みをかけろ、ヴィーグス、私とあやつの足を止めろ! バルビィはどうした!?」


 カンナを遠巻きに、素早く指示を出す。こういう相手には飛び道具なのに。

 「あいつ……ここにきて怖じ気づいたのか……!?」


 館の方向を振り返っても、バルビィが追ってくる気配はない。いや、既に回り込んでいるのだろうか?


 カンナに当たる雨が、プラズマの熱によって瞬時に蒸発する。ジュン、ジュンと短い音を立てて水蒸気があがる。カンナの眼が蛍光翠に光る。シロンに降る雨は、そのまま凍りついてシロンの周囲に氷の幕のようなものを作っていた。


 「ヴィーグス……これまでで最大の敵だぞ……さらに認められたくば……ガラネル様に忠義をつくせよ……!」


 唸り声を上げ、ヴィーグスがその歪んだ口元からガタガタの乱杭歯(らんくいば)をのぞかせた。彼女は確かに人間だった。ただ、その容姿や体軀から、これまで人として扱ってこられなかっただけだ。ガリアがなくば、とっくにのたれ死んでいたか、役立たずのでき損ないとして殺されていただろう。


 地を這うように走り込んで、低い位置から炎の鞭、ガリア「竜炎息状鞭(りゅうえんそくじょうべん)」を伸ばす。炎が雨をものともせずに伸びてカンナを襲った。カンナが振り返って剣をかざすと、稲妻がほとばしり、炎を蹴散らす。ヴィーグスは負けずに、細かく走り込んで何度も鞭を振るった。が、そのことごとくをカンナは黒剣で払いのける。だが、ついにその稲妻の合間を縫って、執拗に振り続けたヴィーグスの鞭がカンナの左手をとらえた。


 「や、やりました!」


 引き絞り、ヴィーグスがシロンを見た。シロンはガリアに凍気を集め、雨も利用して巨大な氷の塊を形成している。固く結晶を敷きつめ、容易には破壊されない硬度だ。


 「時間を稼げ!」


 まだ大きくするのか。ヴィーグスが歯を食いしばってカンナの手をひっぱった。カンナは踏ん張っていたが、唸り声と共に黒剣を振りかざした。ヴィーグスを落雷が襲わんとする瞬間、間合いに入ったマウーラがその重そうなガリア「灰色厚重鎧楯(はいいろあつがさねよろいたて)」でぶちかましをかけた。カンナが黒剣でそれを受けたが、凄まじい「重さ」がのしかかってきて、カンナの細腕では支えきれなかった。アーリーですらひるむ重さなのだ。がっくりと重さに耐えられずに黒剣が地面へ下がった。がら空きとなったカンナの正面に、マウーラが左手で実剣を振るった。アーレグ流の正統剣士であるマウーラ、その喉元へ正確に実剣を叩きつけた。


 だが、だめだ! 唸り声はカンナの声ではなく、ガリアの音圧だ! 実剣は見えない力に押し戻され、ぶるぶると震えて止まった。


 「これは……!」

 マウーラの細い眼が驚愕に見開かれる。


 瞬間、カンナの眉間に球電が光った。青から赤、そして白、緑と、色が克明に変わって行く。メガネが光を反射して、マウーラの顔をその中に映しこんだ。マウーラは、様々な色に光る自分の顔に死相が出ているのを見た。


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