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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
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第2章 3-3 カルビアーノ

 「ああ、来たばかりだから、あまりよく分からないのか? いい御方だよ。七、八年まえにぷらりと来られて……いろいろと、竜のことをおっしゃられて。最初はみんな不審に思ってたけど、じっさいあの御方が竜とのつきあい方を実戦してくれるものだから。ここらじゃガリア遣いも少ないし、竜をうまく扱えるのなら、高いカネを払って遠くからガリア遣いを呼ぶことも無いしな。はい、おまっとう」


 うまそうな出汁の香りが鼻につく。先日と同じ種々の磯の魚介のスープにパーキャスの常食である魚肉ダンゴがたっぷりと入ったもの。ひよこ豆と雑穀の雑炊、焼いたオマール貝、それにカニ肉と海藻を酢で和えたもの、ウニと大きなハマグリの蒸し物が出た。


 カンナは、生まれて初めてこんなに魚介を食べている。じっさいうまいのだが、

 「……ここの人達は、お肉は食べないんですか?」

 「食べるよ。だけど、量がなくってなあ。年に一、二回だな」


 なるほど、ハレの日の料理ということか。竜は食べないのだろうか?

 「食べるよ。しかし、竜はまずくってなあ」

 やはり、まずいのか。


 おやじは他の客の相手をするため、離れてしまった。カンナは無言で黙々とそれらを平らげ、最後にまたハーブティーを飲んで、帰ることにした。


 「ごちそうさまです」

 「ああ、また来なよ」

 「ねえ、おじさん」

 「カルビアーノってんだよ」

 やはり、店の名はおやじの名だった。


 「カルビアーノさん……竜は、ここの人にとって、どういうものですか」

 「どういうって……普通に近くにいるものだよ。おんなじ生き物だろ」

 「生き物……」


 「バーレスの連中がこだわりすぎなんだよ。極端なんだ、あいつらは。竜は滅ぼさなければならない、なんてな……。そら、サラティスやスターラみたいにガリア遣いが山ほどいるならいいよ。いや、山ほどいたって、竜を滅ぼすなんて、どだい無理だろ。サラティスじゃ、もう何十年も竜と戦ってるのに、いっこうに竜は減らないんだろ? だったら、いっしょに生きていけばいい。ちがう?」


 カンナは衝撃のあまり、何も云えずに店を後にした。


 そのまま、家に戻るつもりで、気づいたら真っ暗の港にいた。どうやって来たのか覚えていない。無数の星が眩しく光り、海面に反射して海も光っている。波が無かった。


 「竜と……いっしょに……生きる……?」


 その意味を考えたが、頭痛がしてきた。意味も分からないし、理解もできない。ウガマールで教わったことの、完全に想定外な価値観だった。


 寒くて震えてきたので、なんとか道をたどり、あてがわれた家についた。身体が冷えており、昨日の風呂へ行きたかったが、いまから一人で行く気にはなれず、メガネを置き、備え付けの厚い毛布を重ねてベッドにもぐりこんだ。


 寝つけなかったが、やがてまどろむ。



 夢を見た。


 実体験である寒さの裏返しか、懐かしいウガマールの灼熱の太陽が見えた。神殿のような石造りの建物が乱立している。砂漠と、岩山と川が見える。陽炎に、大きな人物が影のまま立っている。大きい。二十キュルト(約二メートル)近い。アーリーのようだが、それは法衣を着た老人だった。老人が影のまま、カンナを呼んでいる。


 「カンナカームィ」

 「はい」

 「カンナ」

 「はい、神官長様」


 カンナは十歳ほどだった。と、自分でそう思っていた。が、じっさいは、今と同じ姿だった。


 「カンナ、竜は、全て倒さなくてはならない」

 「はい」

 「竜は、忌むべき存在だ」

 「はい」

 「竜を憎むのだ」

 「はい」

 「竜は、殺さなくてはならない。すべての竜を、命をかけて倒す必要がある」

 「はい」

 「竜は皆殺しだ。そのためにおまえは産まれた」

 「はい……神官……長……様……」

 「竜の味方をする者も、みなごろしだ……いいな……」


 老人は最後まで闇の中にあり、その声だけが不気味にカンナの耳にこびりついた。

 カンナはまどろみの中でうなされ、まだ暗い内に眼を醒ました。


 寒い。


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