第2章 3-2 違和感
「そうだろう? こんな島々だから小麦はあまり採れないが、なぜかやたらとハーブが生えてるから、それや豆なんかをたくさん混ぜこんで嵩を増しているんだ。いうなりゃ貧乏の象徴だが、いまじゃちょっとした名物だよ。そいつには、えんどう豆に、ミントとレモンバーブ、それにバジルを少し入れてみた」
「たべたことありません」
「もういっこ、どうだ?」
カンナは遠慮なくもらった。そしてそのまま、丸飲みする勢いで食べてしまう。
「たべっぷりがいいねえ」
店主は笑った。
「ところで……これ……竜……ですよね」
まだ寝ている猪竜をちらちらと見て、カンナが思い切って聴いた。
「竜だよ」
店主があまりにも当たり前に答えたので、カンナは自分が間違ったことを聴いたのかと思った。いや、たぶん、自分は間違っていない。
「あの……大きくなったら、危険じゃないかな? とか……」
「えっ、こいつ、大きくなるの!?」
「えっ!?」
「えっ?」
会話にならない。やはり、何かがちがう。
「大猪竜ですよね」
もう、堰をきった。
「いのしし?」
「あの、見たことないですか? この店なら突進して壊してしまうくらい大きい、大猪竜……主戦竜です」
店主はやや困惑気味に片眉をひそませ、
「いや……おれら、本当の竜はあの海に出るやつしか知らないんだ。サラティスやウガマールじゃ、そういうのが出るのかい?」
「あー……」
カンナは息を飲んだ。
(そういうこと……? いやいや……)
カンナは分からなくなった。とにかく、コンガルの人間にとって、竜とは、ただ憎んだり恐れたり退治したりするだけのものでは無いというのは分かった。
「どうも……ごちそうさまでした……」
「おう、また来なよ!」
何かが衝撃的で、カンナは頭が真っ白になり、何も考えられなくなって、港で海を眺めて一日を過ごし、夜に家へ戻った。ちらと見てみたが、バルビィの家に灯がなかったので、いないようだ。しかし腹は減る。
(わたしが見えるお店……)
昨日、バルビィに連れてゆかれたあの飯屋しか当てがない。が、場所が良く分からない。たしかこの近くだと思い、とにかく暗がりの中を彷徨った。もともと狭い町であるし、覚えのある匂いをたどって、なんと、三軒裏の通りにその店はあった。我ながら、自らの食い気による執念に感心する。
「カルビアーノ」
昨日は気づかなかったが、そう、看板にあった。サラティス語だ。が、意味がわからないので、おやじの名前だろうか。
そっとドアを開けると、ランタンの光が漏れてカンナは眼を細めた。よい匂いとパイプの香ばしい匂いが充満し、酒の匂いも混じる。狭い店なので混んでいたが、おやじはカンナを認めると手招きした。カウンターの隅に席を作ってくれる。
「今日は、バルビィのやつは仕事か」
「さ、さあ……今日は会ってないんです」
「あいつは、ギロア様の信頼が厚いからな」
「へえ……」
ギロアにすら本心を隠し、周囲にもそう見えさせているのは、バルビィの手腕なのだろう。
「たっぷり食べていきなよ。払いは、いいから」
「あの……ギロア……様は、どういった……」