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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第1部「轟鳴の救世者」
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第1章 3-3 荒野

 「我々も行くぞ」

 アーリーが歩きだし、三人が続いた。


 サラティスは城壁に囲まれた要塞都市とはいえ、かなりの面積があった。高く厚い塀の内側には緑地もあるし、小さいが湖もあった。かつて人間の大軍から街を護っていたこの古く由緒正しい城壁は、いまや竜属との戦いの最前線で、人間の希望を護っていた。


 塔からサラティス正門まで歩き、四人は徒歩で街の外へ出た。カンナは昨日、街道からこの大門をくぐったのを思い出した。もう、何週間も前に感じる。


 「こっちだ」


 さっさと街道を外れ、アーリーは畑を遠目に荒野を歩き始めた。カンナもウガマールの奥地からひたすら歩いてここまで来ただけあって歩くのは苦ではなかったが、なにせアーリーは脚が長く歩くのが速い。フレイラとマレッティもそんなアーリーに合わせて歩くのが慣れている。カンナは歩速のペースが崩れ、数刻も歩かない内に息を切らしはじめた。


 「おいおい、カンナちゃんよ、頼むぜ。そんなんじゃ、オレたちと竜退治なんて、とてもじゃないけどできないぜ?」


 「先に行ってなさいよお。初めてなんだからあ。人間、最初からなんでもできたら苦労はしないのよお」


 マレッティがそう云ってカンナに合わせてくれる。だがアーリーは隊列が崩れるのを許さなかった。


 「では、少し休む」


 アーリーは仁王立ちのまま、腕を組んで荒野の向こうをじっとみつめだした。フレイラは地面に胡座で座って、いつのまに用意していたものか、水筒から水を一口飲んだ。マレッティも腰のポーチから小さい水筒を出して口に含んでいる。カンナはそれを見て驚いた。誰も何も用意していないと思って、何も持ってきていない。そんなはずはなかったのに。


 (わたし、本当にやる気があるんだろうか……)

 自己嫌悪でため息も出なかった。

 「少し、飲む?」


 マレッティが水筒を差し出したので、カンナはありがたく少し水を分けてもらった。……が、吹き出しそうになる。それは水ではなく、ワイン醸造の廃棄物であるブドウの搾りかすより作った、度の強い蒸留酒であるグラッパだった。


 「あっははあ、飲まないとやってらんないわよお。あたしだって、あんなコーヴのバッッカ役立たずどもといっしょになんて、御免なんだからあ」


 マレッティが急に据わった眼でそう云い、含み笑いをもらした。

 (ついてけない……ついてけない……)

 一回もまともな仕事をしていないのに、もう心が折れかける。


 「……竜どもが移動している。コーヴたちは、迎撃されたようだ」


 突如、遠くをみつめていたアーリーがそう云ったので、マレッティとフレイラもすぐに立ち上がって小さい望遠鏡を出して片目につけた。カンナだけ座り込んで呆然とそれを見守る。確かに、風に乗って竜の吠える声やバスクたちの戦いの雄叫びが聴こえる。


 それより、アーリーはあの距離でそれが見えるのだろうか。


 「云わんこっちゃねえ。オレたちと別行動をとるから、狙われたんだ。バグルスもあそこにいるとしたら、ヘタすりゃあいつら全滅っすよ」


 ちょっと待った。バグルスというのは、『そんなに強い』のか。

 「そのために、多数を用意したのだがな……行くぞ」


 云うや、アーリーが走り出す。それが速い。たちまち小さくなる。急いでマレッティとフレイラもそれに続いて走り出した。もちろんカンナも続いたが、とても追いつけるものではない。


 「こりゃ、もう、だめ!!」

 走りながら叫んでしまった。涙が出てくる。

 「カンナちゃあん、ほらあ、がんばってえ!」


 マレッティが足踏みしながら遠くで待っている。

 「さ、先に……先に行ってて……!」


 「わかったわあ! 気をつけて来るのよお! 北西に三ルットくらい向こうだからあ!」


 マレッティとフレイラも、荒野をとんでもない速度で駆けて行ってしまう。


 「なんなの……カルマって……なんでわたしがこんなめに……」


 カンナは立ち止まった。水分がほしい。が、荒野に何も無い。急いで息を整え、とにかくあとを追う。距離は三ルット(六キロほど)と云っていた。半分も来ていないだろう。竜と戦う前に移動で体力を失ってしまう。ただの旅と戦いの移動が根本から異なるのを肌で知った。


 「うわあ! もう限界ッ……!」


 我慢してしばらく進んだが、カンナは膝から崩れて地面へ手をついた。眼が回る。日差しも強いし、これは軽い熱射病の症状だった。


 「ツカレタカシュ?」

 「疲れたわよ! つか……えっ?」


 人影に驚いて顔を上げる。メガネを直すと、汗が一気に引いた。

 バグルスが立っている。

 「話せるの!?」


 と思う間もなく、その竜の爪を持った右手がカンナの顔面を引き裂いていた。が、自動的に黒剣が発動して手に納まり、電撃を発しつつカンナを護った。


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