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オホ・イ・ガラ

 影が伸び、木々が揺れる。巨木と同じ程の体躯が姿を現し、その姿に私達は身を竦みそうになった。

 「巨大な……目?」

 私の表現が適切かは分からない。現れたのは、手足や胴、全身に無数の目を生やした巨人だった。一つ一つの目があらゆる方向を向いていたが、顔の双眼が私達を捉える。すると他の目も一斉にぎょろりとこちらを見た。

 「気付かれた……!」

 直後、巨人は私達目掛けその巨体を揺らして走って来る。大きさにしてアルパのゴーレムよりも大きく動きも柔軟だった。

 「ど、どうしようライ!こっち来る!」

 「お前は下がって……いや、動くな!」

 ココが怯えてライさんにしがみ付く。

 「新たなフエンテか……」

 チコの呟きに全員がどよめいた。カラバサからまだ私達はあまり離れていない。だったら、あの場のどこかに居た……?

 「くっ……召喚士はどこだ!」

 「カルディナ。お前は召喚士を探れ」

 「分かった!」

 ライさんもトーロもカルディナさんと共に周囲を警戒する。ウーゴさんとチコはココを庇って剣を構えていた。

 「レブ、私達はあのビアヘロをやるよ!」

 「………」

 レブは悠長に腕を組んでいたが、ゆっくりとその腕を解く。

 「良いだろう。犬ころ、始末をつけろ」

 「え、でも……!」

 フジタカは何か言いたそうだったけど、有無を言わさずにレブが走り出す。私もニクス様の前に立つ。いざという時のために魔法の発動準備はしておかないと。

 「フジタカ!お前の力、見せてやれ!」

 「……分かった。任せとけ!」

 チコの指示にフジタカも剣を抜き、ナイフを展開する。後はもう、簡単なものだ。

 「ぐぅぉぉぉぉぉぉぉおぉぉお!」

 地鳴りを起こしながら駆けてくる巨人がまずはレブへ拳を振り上げる。長い前髪から覗く目は血走っており、明らかに知性は感じない。

 「ふんっ……ぬぅ!」

 立ち止まり、振り下ろされた拳をレブが同じく全身で振った鉄拳で迎え打つ。二つの拳が衝突した瞬間、衝撃の様な風圧を顔に感じて目を細めた。

 「はぁっ!」

 「ぎぃぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 地面にめり込みながらもレブは一撃を耐え、凌いだ。もう片方の手を剣に見立てて尖らせると、手の甲の端にあった一つの目に突き込む。途端に巨人は痛みに悶え苦しむ叫びを上げた。その余りの声の大きさに私は立っていられなくなる。他の人達も同じように屈んでしまっていた。

 「止まるな!」

 鼓膜を直接殴られた様な痛みの中、微かに聞こえたレブの声。そして、走りを止めないフジタカ。私も負けてはいられないと立ち上がる。

 「まだ!レブ!」

 聞こえていたかは分からない。私も、正しく発声できていたかも分からない。だけどレブはすぐに巨人へ向き直る。手を押さえた巨人が今度はレブを踏み潰そうと足を上げた。

 「はぁぁぁ!」

 レブが両手の爪を天へ突き出す。巨人のレブを覆い尽くす足の裏に彼の爪が触れる直前、私の胸が痛む。

 「ぐ、ぐぶぶ、ぐぶうぅぅうぅぅ!」

 巨人が体を痙攣させて口から泡を吹く。全身の目もあちこち違う方向を向いてレブどころではない。

 「チャンス!」

 フジタカが一気に距離を詰める。辛うじて体勢を立て直した巨人が彼を見てももう遅い。

 「消えろぉぉぉぉぉぉっ!」

 剣を放り、脛から生えた目にフジタカがナイフを差し込む。大きさなんて関係ない、フジタカのナイフに刺されてこの世界に留まっていられた存在なんて今のところ残っていないのだから。

 「ぐげ……」

 微かな悲鳴と共に、巨人が姿を消した。ココとライさんが感嘆の声を上げていたけど、私はすぐに大きく窪んだ巨人の足跡へと走る。ココや消えた巨人には悪いが、私達からすれば見慣れた光景だったもの。

 「レブ、大丈夫……?」

 「……うむ」

 抉られた穴は私の膝丈よりも深い。その真ん中でレブが腰まで埋まっていた。

 「手、貸して」

 「いや、この程度自力で……」

 「いいから。ほら」

 私がレブの片手を握り引っ張り上げる。私が来るまで動けなかったんだから、苦戦してる事くらい分かるよ。

 「……助かる」

 言ってレブがもう片方の手で地面に手をつく。私と同時に力んで竜人はなんとか無事、発掘成功した。

 「服、汚れちゃったね」

 「水気も少し含んだ土だな」

 それが作物と相性が良いのかな。レブは汚れを叩き落としつつも気にはしてないみたい。早いうちに、一度丸洗いしないとね。

 「他の者達はどうした」

 言われて私は穴から飛び出て皆の姿を見る。皆、一か所に固まっている。

 「そこだよ、ほら」

 指差してやるとレブも皆を見る。そして、呟いた。

 「呆れたものだな」

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