目的地に夢を馳せて。
フェルティリダッドに着いてしたい事、か。私だったらまずは……。
「じゃあ、果物屋に行きたいです」
口に出してからでは遅い。ライさんが固まるし、私も何を言ったのか分からない。勝手に口が動いていた。
「……そんな所で良いのかな?」
「あの……」
「良いも何も、自ら希望したのだ。文句はあるまい」
レブがここぞとばかりに畳み掛ける。見下ろしてももう全てが後手だった。
「貴様も分かってきたではないか」
「……はぁ」
明らかに上機嫌そうなレブに対して私は肩を落とす。自分からとんちんかんな発言をしてライさんを困らせてしまった。
「ともかく、果物屋なら心当たりがある。楽しみにしてくれ」
「良いだろう」
私の代わりにレブが返事をしてくれる。もういいよ、それで……。
その翌日、私達は準備を整え徒歩でフェルトに向かって歩き出していた。ウレタさんが用意してくれたお弁当もその日の昼にはなくなってしまう。
馬車を使わなかった理由は単純に、私達もココ達も予算が無かった。コラルからアーンクラまでの船賃を除くとあまりお金が残っていない。
「馬車のおじさんを危険に巻き込みたくないし、たまには歩くのも悪くないね!」
ココは予算が無いのを言い換えて無理に歩き旅を楽しもうとしていた。馬車は馬車でそういうのをひっくるめて送り届けるのが仕事だと思うんだけどね。
理由をもう一つ付け加えるならば、ココを守る為でもある。ロカでの襲撃は私達が狙って起こさせた面もあった。警戒状態のニクス様を狙うより、近場かつまだ情報が行き渡っていない別の契約者……ココを狙う可能性は十分考えられる。だからココの言った事も間違いではないのかも。アルパの一件もあるし、インヴィタドに馬車ごと襲われるなんて考えたくない。
「馬車業の召喚士とか、儲からないのかな?」
「盗賊からお客様を守ります!ってか。できなくはないが……」
一方フジタカは気を紛らわせる様にのんびり歩きながらチコと話している。
「鍛冶や鑑定とか……特殊な職業をインヴィタドに手伝ってもらうぐらいならあるよね」
「コラルで会った行商が異例だな」
戦わずにこの世界へ呼ばれるとしたらセシリノさんの様な技術職が多いと思う。レブの言った通り、リッチさんとミゲルさんが特殊なんだよね……。馬車業のインヴィタド……需要はそんなに無さそう。
カルディナさんはウーゴさんと最近の契約と選定試験の状況について話をしている。契約に成功して魔力線が開いた新生児は多いのに、選定試験では合格者がカンポは少ないそうだ。召喚士を目指すよりも農業や別の職に従事したい若者が増えているとか。
「ライさんは魔法も使えるんですか?」
「炎を少々、ね」
私が先陣を切って歩くライさんに声を掛けると人差し指を天に向けてこちらを見た。指先から出るのかな。でも、今まで火を操る魔法は見た事が無い。
「炎程度なら……」
「レーブ」
名前を呼ぶだけで止める。言いたい事は分かってるから。……竜の吐く炎と魔法の炎だったらどっちが強力なのかな。
「………」
専属契約はしてないのか、と聞くのは礼儀に反するかな。どうしてしないのかは人に依るだろうし。それに、ウーゴさんはフェルト支所の印らしき物が刻まれた腕輪を巻いている。あの中にはライさんを召喚した際に使用した召喚陣が契約していなければある筈だ。
専属契約って私が思ったよりも誰もしていない。やっているのを他に見たのは……。
「ねぇ、フジ兄ちゃん!」
そこまで考えていたところにココの声が耳をきん、と通る。
「落ち着きないなぁ、お前。どうした?」
見れば、フジタカの前でココが腕を振っている。
「ナイフ!何か消して見せてよ!」
「こら、ココ!魔法はみだりに使うものじゃないぞ!」
ライさんも足を止めて引き返し、ココの方へ向かう。
「でもこの前は見れな……か……」
フジタカの正面を向いていたココがライさんに向き直る。しかし、返事は途中で止まる。
「まったく、召喚士側にも魔法の負担が大きいのはお前も知っているだろう!」
「ライ……あれ……」
ココがライさんの後ろを指差す。
「誤魔化すな!まして、フジタカ君の魔法は触れた物を消す魔法だ。それがどれだけ希少で強大な物かお前に……」
「ライってば!」
ココが声を張る。次の瞬間にずん、と大きな衝撃が私達の足元を揺らした。
「え……?」
ココの様子がおかしい。それに、ウーゴさんやフジタカ、他の皆も足を止めている。妙な空気に、私とライさんも遅れて彼が指差した先へ視線を移した。




