超ショックでも朝食。
「土産は期待していないぞ」
考えが読まれていた……。
「考える事は一緒だね……。で、本当は?」
「いや」
いや、で私は分かってあげられないってば。ここはフジタカの出番かな。
「出迎えたかったんだろ?おかえり、って言えば良かったろ」
「ここは私達の帰る場所ではない」
「出迎えは本当なんだね」
「………」
レブも話に加えてあげるべきだったかな……。まさかこんなに心配させてたなんて。
「一緒にご飯食べよ?待ってたならまだでしょ」
「……あぁ」
出迎えたかった、なんてレブが普段言ってくれるわけないな。朝食を早く摂るよう、急かしに来たとか。最近はレブならどう表現するか、考えるかばかり頭の中に描いている。
「おはようございます」
「おはよう。どこか行くなら書置きくらいしておいても良いんじゃない?」
カルディナさんが眼鏡の位置を直して苦笑する。私は広間の席に座って軽く頭を下げる。
「すみません、すぐ戻るつもりだったんです」
「気にはしてないわ。私が朝早く起きれないのも悪いし」
「今日は俺が起こした」
言って、カルディナさんの隣に座っているトーロがパンを口に放る。
「ザナは昔から朝早いんだよな。なんで?」
「自然に目が覚めちゃうだけなんだけどなぁ。いただきます」
私からすればチコだって早起きだと思う。なのにそんな印象持たれていたのは意外かも。焼き立てらしい熱いパンに口付けて私は当たり前の返事をする。
「僕も朝早いんだよ!ライと違って!ライと違うから!」
「うるさいぞ……ココ」
広間のもう一つの長椅子と円卓に座るココがからかって笑う。そこに聞こえてきた返事は腹の奥底から呻くような声だった。見れば鬣がもさもさの獣人が頭を揺らしながらのろのろとパンをかじり、スープを飲んでいる。姿勢も悪く、ライさんと分かったのはココとウーゴさんが一緒に居たからだ。一人だったら気付けなかったかもしれない。
「本当に朝弱いんだな……」
フジタカも目を丸くしている。ニクス様は意に介す様子も無くパンをちぎっては食べていた。鳥人は朝に強いのかな、と思ったけど案外普通に起きてくる。
「………」
対してレブも、横たわる姿は何度も見ているけど私が先に起きた事は無い。……レブが先に寝た、というのも見た事は無いかも。
「あのさ、レブ」
「どうした」
「いつ寝てるの?焚き火の番とかもいつも自分で引き受けるし」
私からの質問にパンへ伸ばしていた手をレブが止めた。
「まるで私が寝ていない様な口振りだな」
「そうは言わないけど……」
「いや、言うぞ。お前、今日も俺より早起きしてたろ」
フジタカがパンを頬張りながら話に入ってくる。他に同室だったチコとトーロも頷いた。
「他の連中が寝静まってから休んで、先に起きている。それで良いだろう」
「………」
何か含みがある気がする。でも、今まで大丈夫だったレブを信じる事はできる。
「休んでいるし、平気なんだね?」
「貴様に言われるまでもない」
それが答えと言うのなら私もこれ以上は言わない。
「眠くなったら言ってね。膝枕くらいならしてあげる」
「………」
あれ、私からの提案……喜んでくれなかった?好きそう、って言ったら悪いかもしれないけど。
「どういう吹き回しだ。何か良い事でもあったか」
言ってレブがフジタカを見る。
「俺は何もしてないよ……。なぁ?」
「ちょっと話してただけだよ。ココも途中まで。ね?」
席向こうのココへ話し掛けるとパンをゴクン、と嚥下してココが頷く。
「うん!ねぇライ、ザナ姉ちゃんとフジ兄ちゃんと話してたんだよ!」
「さっきも聞いた……」
今すぐ二度寝したい、と顔に書いているライさんはまるで不眠不休の重労働を課せられた寝不足の中年に見えた。ココが態度を変えないのだから、あれがいつもなのかな……。
「それでさ、提案!ねぇニクス、そして他の人達も!フェルトに皆で行かない?」
「えっ?」
ココが立ち上がり、両手を広げ笑顔で私達を見る。その提案に皆が目を丸くする。ウーゴさんとライさんも知らないみたいだった。
「……んんっ!ココ。どういうつもりだ」
咳ばらいをして突然ライさんの声色が変わる。それに、目に光が宿って昨日のライさんとなんとなく雰囲気が近くなった。
「あ、やっと起きた」
「俺の話じゃない。お前が言った話だ」
これで起きた、なんだ。鬣の寝癖だけ直せばと思っている間に背筋も伸びていく。
「だってライ。僕、もっとトロノの人達と話したいんだもん!」
口を尖らせるココ。そう思ってくれるのは嬉しんだけど……。




