似た者同士。
「本当に?」
ココもフジタカの顔を覗き込んで首を傾げる。
「嘘言ってどうすんだよ」
「だってフジ兄ちゃんがいたのは契約者が必要ない世界って事でしょ?」
ココや契約者を否定するつもりで言ったんじゃない。だけどフジタカは口を押えて目を逸らす。
「ねぇ、ココはどうして契約者として活動してるの?」
話をずらしてしまう様で悪いけど私も聞いてみたかった。五歳から契約をしていると言うのなら、経験は幾つも積んでいるんだろうし。
「僕が契約してる理由?うーん……」
「………」
私とフジタカが見守る中、ココは少しだけ唸ってから答えてくれた。
「できるから、かな」
「は?お前……」
「………」
この話は前もした事があった。あの時はニクス様が居なくなってからレブに言われたんだ。その内容と、今のココの返答に相違は無い。
「なんか無いのか?こう、オリソンティ・エラの人の生活を豊かにするためーとかさ」
「……ううん。僕は、できるからやってるだけ」
本音を言うと有ってほしかった。レブの言っていた事は違ってたよ、って後で教えてあげたかった。ココはわざと仰々しく言ったフジタカに首を横に振って見せる。
目の前の契約者は姿形こそ幼いものの、紛れもない他と同じ契約者だった。レブが知っている契約者、ニクス様とも考え方の根底は同じ。
「必要とされている力があって、他の人はできなくても、僕にはできるからやってあげてただけ。そこに理由はないよ」
「おま……」
「待って、フジタカ」
前に出て何か言いかけたフジタカを私が止める。
「僕、変な事言ってるのかな。だって、僕には他にできる事ないもん」
「そんな……」
「そんな訳ないだろ」
フジタカが肩の力を抜いて私の前へ出た。体を屈め、ココと目線を合わせてやる。
「剣でも料理でも、何かあるだろ?今みたいに話をしたり、聞いたりだって良い。それは契約者でないといけないって事ではないだろ」
「……うーん」
怖がらせるつもりはないんだろうけど、少し顔が近いからココは一歩下がって答えを濁す。
「確かにお前は契約者さ。他の人と違う事ができる意味、ちょっとは考えてみても良いんじゃないか?それが理由で俺達は今、こうしてココと話してるんだしな」
「契約者が命を狙われているから私達は出会えた……少し変だね」
今こうして話せてるのはココが契約者だから、というのは間違いない。
「うん……」
ココは私達の横を通り過ぎて宿へ向かう。
「もう戻るのか?」
「そろそろ朝食の時間だから。ライとウーゴも起こさないと」
「そっか」
フジタカはそれだけ言って村の中へ歩き出す。戻るココと進むフジタカ、私は少し迷ってフジタカを追った。
「来たな」
私が横に並んで歩き出すとフジタカはニヤ、と笑った。
「朝、食べ損ねるよ?」
「その前に少しザナとも話したくてさ」
私に用事が最初からあったわけじゃないと思う。多分、ココの話だ。
「契約者、の話?」
「俺としてはココ個人の話のつもりなんだけどな」
ココ個人、って噛みそうだけどフジタカはしっかり言えてた。獣の口でも滑舌が良いのはやっぱり普段から喋ってるからなのかな。それとも、実は私達の口と構造があんまり変わらないとか。
「昨日会ったばっかなのに、ちょっと言い過ぎたかな」
フジタカは鼻の頭をむずむずさせながら言った。
「私はそうは思わないけどな。……契約者にはもっと使命があると思ってたもん」
そんな物はない、とレブに言われた時は少し落ち込んだな。今回契約者本人から言われたのもやっぱり身構えはしてたけど、信じたくなかった。
「アイツ、俺みたいな事を言ってたから気になってさ」
歩きながらフジタカは苦笑した。
「俺みたい?」
「僕には他にできる事ない、ってやつ。思い出さないか?」
「あー……」
どこかで聞いた。確か、俺はただの男子高校生がどうたら。
「似てるっちゃ似てるかもねぇ?」
「そ、そんな顔して見んなよ」
フジタカも自分には何もできないって言ってレブから決め付けるなって言われてたっけ。私が笑いながら見るとフジタカは落ち着きなく目線を泳がせる。
「アルパで皆の前で啖呵を切ってたフジタカはカッコよかったよ?」
「そういうのいいって!恥ずいだろ!」
照れてるんだ。でも、あの時のフジタカに迷いは無かった。アルパのため、自分にできる全霊で立ち向かおうとしてしてくれた。
「……今でも、自信があるわけじゃないんだ。まだナイフも上手く使えないし。だけど、俺があの時考えてた事、ココにも伝えられないかなって思ったんだよ」




