一息も吐けずに。
第十七章
宿に着いた私達は広間に集まってこれまでの話をココとウーゴさん、そしてライさんに伝えた。話の内容は主にフエンテについて。アルパの事件から説明した際はビアヘロでは、と向こうからも手堅い仮説を返されたけど、私達が彼らに会ったのつい先日だし間違い様が無い。
最初こそ半信半疑の様だったけどトーロの肩の傷に誤魔化しは効かない。傷は塞がったものの、痛々しい痕は今も刻まれていた。
「……フエンテ。ココ、聞いた事は?」
「知らない。契約者が来るよりも昔から召喚士が居たのは聞いてたけど」
一通り話を聞いてもらい、ライさんがココを見る。知っていたのか、とライさんとウーゴさんも顔を見合わせる。……ニクス様だけ別の召喚士達を知っていた私達と同じだ。
「知ってたならどうして言わなかったんだ」
「んー……」
ココは表情がくるくる変わる。退屈そうに話を聞いてたと思えば、質問に口を曲げて顔を掻いたり。見た目以上に幼く見えてしまう。
「僕だって会った事無かったし、聞かれないから言う必要も無かったし?」
「お前な……」
こうして呆れるライさんと、悪びれもせず答えて笑うココは確かに違う。似てはいないが仲良しの兄弟くらいなら……無理かな。ライさん、何歳なんだろう。お父さん、って歳じゃなかったら悪いよね。
「アルパの事件も知らなかったのか?」
フジタカが訝しむ様に質問する。アルパで暴れたゴーレムはビアヘロではないと分かってしばらく経つのに、この人達は全く知らなかった。
「僕達、いっつも旅してるもんね。噂話は聞くけど……」
ココも私達の視線に困った様に笑う。
「大陸向こうの話はあまり入ってこなくてな。フェルティリダッドにももうしばらく戻っていない」
「ふぇ……フェ?」
ウーゴさんの出した名前に今度はフジタカが混乱したみたい。
「フェルティリダッドはカンポの拠点みたいな町だよ。大抵フェルトって呼ばれてる」
ボルンタ大陸で言うトロノ……よりは人口も規模も小規模かな。農業の生産量は圧倒的に多いんだけど。
「へぇ……。フェルト、か……」
「そこの召喚士育成機関、フェルト支所に所属するのが我々です」
フェルト支所……どんなところで、どんな召喚士やインヴィタドがいるんだろう。
「フェルトへはトロノの所長から連絡が行っているだろう」
「ボルンタの話がこっちまで流れてくる事は滅多にない。だが、今回の事件は根が深そうだな」
ライさんも深刻な顔をして俯く。
「カラバサで誰が結婚したー、とかってカンポの中の話ならすぐ耳に入るのにねー」
そこにココは笑顔で茶々を入れてくる。誰が危険って、君が危険なのに。
「お前な……」
「だって、この話つまんないんだもん」
ココが言って口をひくひく動かしながらライさんを見ている。二人のやり取りに私達は何をこの先言おうか分からなくなった。
「……前からこんな感じなんですか?」
「ココは、ね。それでライは砕けたかな。前はもっと腫物を扱う様にしてたんだけど」
カルディナさんが肩を竦めると同時にライさんの鉄拳がココの頭頂へ見舞われる。契約者への扱い、と考えると信じられない光景だった。
「お前!命狙われてる自覚あるのか!」
「危ない時にはライが守ってくれるでしょ!?なら僕は気にしなくていいじゃん!」
開き直り、ってこういうのを言うんだろうな。レブはどう思ってるんだろう、こういう子に対して。
「なっ……!」
「それとも守ってくんないの?」
ココの意見にライさんが身を引いて口を歪ませる。しかしココからの問いへの答えは一つ。
「……守るに決まっているだろう」
「ほーらね!僕、ライもウーゴも大好き!」
「まったく……」
横に座るライさんに抱き着くココ。そんな彼の頭を微笑みながら撫でるライさん。和やかな雰囲気が場を包んでいく。
「……俺知ってる。そういうの甘やかし、って言うんだ」
「ぐ……」
そこに水をちびちび飲んでいたフジタカからの冷静な一言。呻いたのは何もライさんだけではない。
「退屈な話だ。けど聞いとけよ、次はお前かもしれないんだぞ」
「……はーい」
間延びした返事をしてココが長椅子に再び腰を埋める。ライさんはフジタカに静かに謝っていた。
「フエンテからの二人……消えた、と言うのが妙ですよね」
「それも俺みたいな力でな」
ウーゴさんが話の腰を戻すとフジタカがナイフを取り出した。三人とも目を丸くして、そっちの説明をまだ済ませていなかった事を思い出す。
「君の魔法は何かを消せるのか」
「あぁ。条件はあるけど、消せる」




