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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
異世界に来ちゃった狼男子高校生の苦衷
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ゴツゴツ対ベチョベチョ。

 「何があったかは知らないけど、話は終わった?」

 ブラス所長がようやく口を開く。

 「はい。……あ、今日はお忙しいところ来て頂き、ありがとうございました!」

 今日行われたのはチコの決意表明。事情を知っている私達はともかく、ブラス所長から見れば今のやり取りは分からなかったと思う。

 「いやいや。召喚おめでとう。……ちゃんと言う事は聞くんだろうね?」

 「はい、それはもう!」

 チコが指差した方向へスライムが跳ねる。べしゃ、と一度潰れたがすぐ一塊に集まった。

 「ふーむ……。もう少し大きく召喚できたんじゃないの?君の力なら、まだ余ってるんだし」

 スライムに近付き、目測で所長が言うとチコは声を詰まらせた。

 「う……。あ、はは……。すみません、どの程度の大きさまでなら御し切れるか分からなかったので」

 「だから今回は確実性を取ったわけね。若いのに堅実じゃない?」

 屈んでしばらくスライムを見ていたブラス所長だったけど、ふと振り返ってチコを見る。

 「いやぁ、でも確かに凄いじゃない。最初の教程は独学でしょ?これからも頑張ってよ」

 「……はい!」

 所長に肩を叩かれ、チコは表情を明るくする。

 「そんなわけで君達にはこの後もうひと頑張りしてもらうから」

 「はい?」

 君達、と言って所長は私の方も見た。

 「詳細は追って別の者から今日中には伝えるから。詳しい事は後で聞いてよ」

 地面に煙草を押し付け火を消すと、ブラス所長は吸殻入れに捨てて背広の内ポケットへしまいながら立ち上がる。

 「え、あの……」

 「それじゃ、またね」

 踵を返して去っていくブラス所長からは何も聞けなかった。知っているなら教えてくれても良かったと思うんだけど。

 「……なんか、思ったよりも反応薄かったな、あの所長」

 「そうだな」

 フジタカは小さくなっていく所長の背中をまだ見ていた。しかしチコはもうスライムを操る方へ意識を集中している様だった。

 「ねぇ、チコ。そのスライムどうするの?」

 「決まってる。特訓相手に使う」

 特訓相手って……。

 「まずはオチビ!お前だ」

 「ふん。眼鏡をかけた召喚士よりも小さなスライムしか出していないのに、いきなり私に挑むか」

 「大きさは腕で補うっ!」

 言って、チコがスライムをレブに仕掛けさせた。びょんと跳ねた卵の白身の様な軟体がレブを呑み込もうと広がり、覆い被さろうとする。

 「少し、体感させてやるか。私の力を」

 小声だがレブの一言が聞こえ、目が合った。私が承認の意味で頷くとレブは口の端を上げた。

 「ふっ」

 レブの手が一瞬だけ光る。バチン、と何かを破裂させた様な音と同時にチコの出したスライムが弾け飛んでしまった。

 「うぐぁ!?」

 「チコ!」

 それと一緒にチコが一瞬大きく仰け反った。フジタカも異変に気付いて駆け寄る。

 「あの程度のスライムと感覚の共有を切っていなかった。詰めが甘い」

 レブが雷撃を使った瞬間もチコはスライムと魔力線を繋いでいた。だから急に線が分断され、流れていた魔力に無理な逆流が起きる。その反動でチコの体はびっくりしてしまった。

 「初めて召喚して少し操った程度。それで私に勝てると思うとは、見くびられたものだな」

 「だってお前、スライムに散々やられてたじゃんよ……」

 インヴィタドが負ける、と思ったら魔力線の共有を切る。そうしなかったからお腹を押さえる羽目になるんだけど、チコはレブに口を尖らせた。

 「私だって成長しているということだ。なぁ?」

 「……うん!」

 レブが私を見上げる。私だって、ずっと同じではない。

 前はレブもスライム相手にも多少本気を出していたけど、今は必要最低限の魔力で相手をしていた。そのおかげもあるし、私自身もレブの魔法の使用に融通が利くように魔力の増大に努めてきた。おかげで、今の魔法にも消耗はほとんどない。

 「じゃ、フジタカ!俺のスライムと連携で奴を倒せ!」

 「えー。この剣じゃ無理だろ。前も何本か折ってるのに」

 チコの指示にフジタカは怠そうに答える。すっかりいつもの調子に戻って見えた。

 「てか、スライムは今デブが倒しちゃったろ?多分核もやられただろうし」

 「それなら大丈夫だよ、チコ次第だけど」

 フジタカの疑問に私が代わりに答える。

 「言ってくれるじゃねぇかザナ。見てろ……!」

 再び、チコの召喚陣が輝く。

 「来いや!」

 チコの宣言と同時にスライムが姿を見せる。煽ってしまったのは私だけど、チコの様子を見るとこれ以上は無理そうだった。

 「はー……はー……どうよ!」

 「おぉー。召喚陣って、再利用できるのか」

 「そういうこと」

 魔力の消耗を押さえることはできないから、そこの部分はまた一から。しかし、召喚陣さえ健在なら召喚士の魔力の貯蔵と腕に依っては何度でも使用できる。要領さえ掴んで鉱石を呼び出す陣、スライムを呼び出す陣、なんて用途を決めて保管すれば描く手間は省ける。今回の藁半紙じゃそのうち破けてしまうと思うけど、試したかったみたいだからチコは使い潰すんだろうな。

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