新たな契約者。
「トーロは知っているとして……狼男と……」
ライさんがフジタカとレブを見る。
「……美しい、爬虫類?」
惜しい!というか、初見でレブの見た目を褒めようとしてくれた人ってライさんが初めてかも。心意気に打たれたか、レブも珍しく何も言い返さない。……竜って、爬虫類の分類で良いのか疑問だけどね。
「俺はフジタカです」
「………」
「そこにいるのはレブです。一応……竜人、なんです」
竜人と紹介してニクス様に話し掛けていた男の子が振り返ってこちらにやって来た。
「竜人……!?通りで鱗の発色が……」
「え!竜人!僕会うのって……」
インヴィタドの中でもやっぱり、普通に生きていて遭遇することがほとんどない竜人となれば興奮するみたい。……と、思ったらレブの姿を見た途端に男の子の表情が消えていく。
「えと……」
辺りを見て、チコと目が合う。
「………」
次に私と目が合った時だった。
「……お姉ちゃん、この人に何をしたの?」
その質問を受けて私は一気に寒気がした。この子、レブは私が召喚したと気付いたんだ。
「何、って……。私が選定試験で呼んだんだ。それで今もそのまま居てもらってるんだよ」
「そう……」
獅子の男の子はそのままレブをじっと見下ろしている。そこにライさんのゲンコツが飛び、生えかけの鬣を大きく凹ませた。
「いった~い!何すんのさ!」
「自己紹介が先だろ、ココ」
握り拳を再び掲げ、ライさんが脅せばココ、と呼ばれた男の子は頭を押さえて短く悲鳴を上げた。
「わ、分かったってば。知ってる人も多いけどね」
「まぁな」
トーロが返事をして、カルディナさんもうんうん頷く。この親子とは前から知り合いなんだ。
「僕はコレオ・コントラト。頭文字を取って、ココって呼んでよ」
短い自己紹介に聞き覚えのある単語が。コントラト……って。
「え、ライさん達……契約者なんですか?」
もしやと思って聞いてみた。コントラト、と言えばニクス様の性でもある。それをこの子が名乗ると言う事は……。
「俺は違う」
「あれ?」
しかし、ライさんは短く否定して首を横に振った。
「ライさん……ココ君、のお父さんじゃないんですか?」
「あ……!」
フジタカの声がした。振り返ると、大きく口を開けて首を横に振ってる。
「はぁぁぁぁ!?俺が、コイツの父親ぁ!?」
落ち着き払った紳士の様だったライさんが急に声を荒げる。顔も心なしか強張っている。
「ぷ、ぷくくく……ライが、僕の父親だって……!」
ココ君が笑いを堪え切れずに震えている。自分が何を言ったか分からないのに、あまり相応しくない事を言ったとは気付いた。
「ザナ、今のはお前とチコは姉弟ですよね?って質問と同じだぞ」
「でもフジタカ!私とチコは髪の色も違うし……!」
静かに指摘するフジタカにこちらも熱が入って言い返しそうになったが、途中で言わんとした部分を読み取った。
「……俺とコイツ、そんなに似ているかい?」
……似て、ないんだ。……同じ獅子の獣人だからって親子だと思い込んでた。
「すみませんでした」
素直に頭を下げると周りから笑い声が起きる。そんなにおかしい事を言ったかな、と思ってレブやトーロにも確認の意を込めて視線を送った。渋い反応からして、やっぱり私がまずかったみたい。
「面白い子だね!僕の事はココ、って呼び捨てでいいよ」
「じゃあ……契約者はココだけ?」
改めて質問するとココは頷いた。ライさんと、後ろにいた他の人達やニクス様も。
「俺はそこにいるウーゴのインヴィタドだ」
ライさんが親指で差した先に立っていた長身に黒いローブを羽織った人間の男の人と目が合う。
「ウーゴ・ムニティスです。ライと一緒にココ様の護衛をしております。そっちの二人はウレタさん。この村の宿の経営者親子です」
目尻に刻まれた皺から見た目は少し老いている。だけどウーゴさんの声は張りがあった。
「君達もライと僕とウーゴと同じ、ウレタの宿に泊まるんだよね?案内するよ!一緒に行こう!」
「うわっ……待てって!」
「ボルンタでの話、たくさん聞かせてよ!」
自己紹介を簡単済ませると、ココは落ち着きなくフジタカの手を掴んで宿の方へと無遠慮に歩き出す。彼は契約者と名乗ったけど、まさか子どもの契約者が現れるなんて思っていなかった。
それでも、私達は旅の疲れもあって彼の案内に従って宿へとまずは向かった。




