好きこそものの。
トーロが頭を押さえて唸る。自分からフジタカに教えたい事がある様な話も出ていたし、丁度良いのかも。
「はーい、おまちどうさま!」
合わせてトーロが頼んでくれていた料理が運ばれてくる。できたてで温かな湯気香る料理に自然と私のお腹も鳴いた。……聞こえてないよね?
「………」
「………」
フジタカとレブが私の目を見た。……残念ながら聞こえていたみたい。ニクス様とトーロは気にしていないのかこちらを見ないし、カルディナさんとチコは気付いてもいない様だった。
「……食おうぜ。いただきまーす」
「いただきます……」
フジタカが手を合わせてから食事を始める。私も続くと、他の皆も同じ様に食べ始める。何も言われないからって何も思われてない訳がない。はしたないとか思われてないかな……。
「……ザナ、これ食うか?」
「ありがとう」
言って、フジタカがそっと私の方に網籠を寄せてくれる。中に入っていたのは前に食べられなかった魚の揚げ物だった。
「はむ」
フォークを突き入れ一匹だけ口に入れた。途端に油が沁みてサクサクとした衣が口いっぱいに広がる。中から現れた魚の身も火がしっかりと通っており噛む毎に容易く崩れた。
「美味しい!」
お腹が空いていたってのもある。それにしてもやっぱり新鮮な魚を調理したからかな?トロノで食べた魚とは風味が違う。
「生では食べないのか」
「人種によっては腹を壊すらしいぞ。あと、海苔を分解できるのは俺達と一部の連中だけだし」
ノリ、ってなんだろう。とりあえずフジタカは生魚もノリも分解できる強靭なお腹を持ってるみたい。いつもおへそ出してるもんね……。
「レブも食べなよ。美味しいよ」
「ふむ」
器用にフォークを使って揚げ物をレブが頬張る。もちもちと口を動かし、ごっくん。レブが住んでた世界の食文化ってどんなものだったのかな。フォークもナイフも器用に使うから、そんなには変わらないのかも。
「どう?」
「魚だ」
そうじゃなくて……。でも、レブの事だから美味しいなんて言う訳がない。
「気に入った?」
「ここに来る事があれば、また食べなくもない」
うん、反応は悪くない。これ以上無理に言わせるのは止めておこう。本人も精一杯口にしているんだし。
前に飲んだスープも変わらない味だったけど、あの時はお腹の中でチクチクと痛みながら飲んでいた。絶好調に回復した今の私が飲んだスープはどんどん体に行き渡る。
「………」
そして食事を一通り楽しんだ後はお待ちかね、食後の果物をレブが味わう。……こうして思うと、今日だけとは言え豪勢な食事だよなぁ。
「食い過ぎると太るぞ、デブ」
「ブドウによって肥え太れるならば本望だとは思わないか」
共感を求めないでよ。と言うか、レブにそこまで言わせるブドウも凄いけど。
「はぁ。で……?次に目指すのがカンポの……カラバサ?」
「そうだ」
フジタカもブドウに夢中のレブを相手にしていられなかったのか、話題を変えてチコの方を見る。
「どんな場所なんだ?」
「俺はセルヴァとトロノ……あとはお前と同じとこしか知らねーぞ」
聞いてる相手にそんな言い方しなくても。でも、チコは選定試験を合格するまではセルヴァから出た事はほとんど無かった。買い出しでトロノへ大人達と馬車に乗って行く事が一年に一度あるかないか。
「カラバサは野菜農業で栄えた村だよ。昔から積極的に開墾して土地を広げてたんだって」
「ザナさん、詳しいのね?」
カルディナさんが身を乗り出して聞いてくれたからつい、鼻の頭を掻いてしまう。
「えへ……。前から地理とかの本が好きで、トロノでもたまに読んでいたんです。それで自然と覚えて」
最初は自分が住んでいるボルンタ大陸から。それから少しずつ海の向こうにどんな村や町があるのかどんどん気になった。
何故なら、いつか私は召喚士としてそこに派遣されるかもしれないから。……はい、そんな妄想を幼い頃から続けていた結果がこれです。
「勤勉なのだな」
「熱意はあったかな」
レブは私を過大評価してないかな。自分の趣味が続いていたから知っていただけなのに。……でも、どうせなら本当に自分の長所にできないかな。
「ニクス様やカルディナさんは行った事は……?」
「その辺りはもう、私達トロノ支所所属の召喚士は管轄外なの」
「契約も同じだ。ロカは自分が昔から行っていたから続けているが、それだけだ」
管轄の境目で合流しよう、って話なんだ。どうせならロカも担当を引き継げたら良いんじゃないかな……。ロカに行く為に海を毎回渡るのも大変だろうし。




