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お試し手揉み三十分コースで。

 「俺の……力……」

 起き上がって胸をそっと押さえ、目を閉じたフジタカにそっとナイフを握らせてやる。ポルさんが言うには消す気があるから消しているそうだ。でも、その意識が強すぎるから調整できない。極端な話、オリソンティ・エラを消したいと言ってもフジタカの分に合わないから地面に突き刺しても消えはしない。心のどこかで消えて欲しくないと制限をかけているからだ。そう言った制限を自分の中で細かく用意できればおのずと姿は変わる。

 「ここだぁ!」

 ブン、とナイフを振ってカルディナさんが書き損じた書類を切る。……先程と特に変わらない。紙は全て消えてしまった。

 「気取った割に……」

 「それ以上言うと、俺が傷付くぞ」

 自分から宣言しないでよ。レブも言う気が失せたのか腕を組んで肩を下げる。

 「やってるつもりなんだけど……実感が湧かないんだよな。前みたく適当に振ってるだけじゃないし」

 消す時は消す、なんて意識してナイフを使っているらしい。本人も自分の中に魔力の様なもやもやを感じると言っていた。それを引き出すコツがまだ見出せていない。

 その代わりにフジタカは順調に剣技も体術も磨いている。カラテは自力で習った事を反復、剣術に関しては夕方と早朝にトーロから指南を受けながらの旅だった。身体つきも、初めて会った時よりは逞しくなったかも。

 そこに、コンコンと扉を叩く音がしてゆっくりと開かれる。

 「そろそろ食事にしない?」

 開いて中へと入ってきたのはカルディナさんだった。

 「あれ、お一人ですか?」

 「ニクス様とトーロは先に行ってます。あとは貴方達だけ」

 「じゃあすぐに行きます」

 私の返事にカルディナさんは待ってる、と言って扉を閉めた。

 「ふう……。じゃあ、今回はここまでだな」

 フジタカが床に手をついてナイフを服へ収納した。……思えば、入浴してるとか服を脱いでるとき以外はいつも身に着けてるよね。

 「疲れた?」

 「うーん、気を張ってからかなー。いつもは平気なのにこめかみがずーんと重い」

 フジタカが耳の付け根辺りを押さえて目を閉じる。間に皺が刻まれ、私はつい指を入れてみた。

 「あ、ふかふかのむにむに」

 「やめれって」

 何度か動かしてから指を離すとフジタカが目を開ける。疲れたとは言っても、魔力の消耗というよりはただの緊張みたいだ。……今までにない返答だったから少し判断も迷うけど。

 「チコは?フジタカ、それなりに消してたよね」

 「俺は問題無し」

 チコの方は本当にケロッとしている。ロカでのスライムから特に何も召喚したり、フジタカに消させたりしていなかったからかな。素の魔力が高いからって気にもならないのかも。

 「レブは?一応魔法浴びせちゃったけど」

 一番元気そうなレブの顔を見る。

 「見た目は派手になってきたが、まだまだだ。肩凝り解消くらいにまではなってもらわんとな」

 初めて使った時はレブから制限が掛けられた。ロカの時だって、レブに対しては何の効果もない程度だったと思う。

 「引き続き練習相手、お願い」

 「任せておけ」

急場しのぎで使った魔法と違って今はゆっくりと詠唱する時間も貰えている。なのに、あの時と同じ出力まで上がっていないと感じていた。……私も、フジタカと同じ様に建物を壊さない様にって思ってるから必要分の魔法にもならないのかな。

 「反省は後だ。食事にしよう」

 レブからの提案に私達も同意。ニクス様達も待たせてるし。

 「じゃあレブ、後で寝る前に肩を揉んであげようか?」

 さっき肩凝りがどうとか言ってたし。魔法から日常までいつもお世話になっているせめてものお礼に。

 「………」

 だけどレブは珍しくしばらく返事をしてくれない。

 「……揉みたいのなら揉みしだけ」

 「いや、私はそういう趣味は……」

 何か勘違いしてないかな、レブ……。私が触りたくて堪らないとでも思ったのかな。

 「変な事言うなよデブ。ザナは年老いたお前を心配してんだろ」

 「人を年寄り呼ばわりするな若造が……!」

 フジタカはレブの言葉はだいたい正しく翻訳してくれる。だけど私の分かりにくい言葉を訳す時はちょっとズレてしまうみたい。レブも怒って腕をぶんぶん振ってるし。

 「俺、先に行くぞ……」

 チコがボソっと扉の前で言って部屋から出て行った。それを見逃す私とフジタカではない。

 「私もお腹空いちゃったっと……」

 「あぁ、待てよチコ!ザナも!」

 「話は最後まで……ええい、置いて行くな!」

 バタバタと騒いで他の部屋の宿泊客に迷惑じゃないかな……。少し心配になっても、廊下に出れば割と他の部屋も似た様なものだった。

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