繋がらせる者との繋がり。
「ブラス所長なら何か知っているかもしれないですよね、フエンテについて……」
「奴は臭い」
船酔いを乗り越えても必要ならば、と私がトロノ支所を思い出す。ソニアさんはビアヘロに詳しいけど、この世界の召喚士に関しても勉強しているのかな。……となれば、と次に思い付いた人物を口に出したらレブがすぐに首を横に振った。
「く、臭いって……。煙草でしょ?」
「いや……なんつーか……うん、胡散臭い?」
フジタカまで……。人望無いんだな、あの人……。私は別に悪い印象持ってないのに。
「……ともかく。私達はトロノには戻りません。フジタカの言う通り、目的はアマドルとレジェスの捕縛が裏にあったとして、理由はどうあれ失敗。ここで契約だけして引き返したら成果がありません」
目を伏せてカルディナさんは腕を押さえた。
「よって、トロノへは報告書だけ送ります。貴方達には、戻る前にもう一か所だけ寄り道に付き合ってもらう事になります」
周りの情報が勉強だと思える限り、寄り道にはならない。カルディナさんに私から反論する事はなかった。
「寄るってどこにですか?」
召喚士選定試験をしないなら、ここみたいに契約だけして戻るって事かな。他にも保留を増やしてしまうのは、得策ではないと思うんだけど……。
「……契約者のところだ」
「は?え?ニクスさん……様、じゃない?」
私の質問にニクス様が答える。返答に対してフジタカがおろおろと首を傾げた。ニクス様の呼び方に迷ってて少し笑っちゃった。
「あぁ。居場所が分かっている契約者がこの地方に丁度来ている。……フエンテの件も知っているとは限らない」
「元々、ロカの後は落ち合う予定にしていたの。ロカでどうなるか分からなかったから、申し訳ないけど伏せていました」
知っていたのはニクス様とあとはトーロだけかな。……少し、大人の中に入れない自分がもどかしい。
「その契約者って無事なのか?」
「分からない……。ただ、ブラス所長からはもう各地方の支所に連絡が行っている筈よ」
ロカに誘き出したのは言ってないと思う。連絡したとすればアルパの件だ。専属召喚したゴーレムが暴れ回り、犯人は逃走中。警戒するには十分過ぎる情報だ。
「傭兵なり召喚士とインヴィタドの警護くらいはいるだろう」
「もちろん」
それもそうか。ニクス様にとってのカルディナさんとトーロみたいな関係の人が、他の契約者にもいるよね。
私はニクス様以外の契約者は知らない。世界に一人しかいないと思っていた時期さえあった。今でこそ、一人でこのオリソンティ・エラを回っているなんて考えは絶対にしない。他には何人いるかまでは分からないけど……。
「でも、急ぎません。もう強行軍も必要ないし、明日は陽が昇ってから陸路を使っての移動にします。異見は?」
カルディナさんが私達を見回す。強いて言うなら、レブが引き続き警戒を提案するかと思ったけどそれも無い。
「……では、私達の中では決まりね。トーロにはこれから話してきます」
「チコには俺から言っときます。……たぶん、反対はしないでしょうし」
「お願い」
こうして私達の打ち合わせはそれぞれの落としどころを持って終わった。
「では自分は失礼する」
ニクス様が最初に退室した。続いてカルディナさんとフジタカも席を立つ。
「場合によっては通り道の近くだからコラルにも寄りましょ。ミゲルとリッチはもういないでしょうね……」
そう言えば、今度はトロノに行くって言ってたっけ。無事に着いてるといいな。
「じゃあ、おやすみなさい」
「俺も!おやすみ、ザナ、デブ!」
「うん!おやすみなさい、また明日!」
二人が部屋から出て、残ったのはもう私とレブだけ。閉まった扉を見てしばらく私は黙っていた。
……自分の中の、召喚士という存在が揺らいでしまったから。




