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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
アラサードラゴンと狼男子高校生、海路を往く
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一夜明けたら張り切って。

 翌朝、レブがいなくなっていた部屋で私は目を覚まして身支度を整える。外に出るとチコ達が集まっていた。

 「おはようございます、ニクス様」

 「おはよう」

 まずは契約者のニクス様に挨拶。既に村人の多くが依頼と見物に集まっていた。

 「……契約者って偉いんだな?」

 「偉いっつーか……。俺達の世界じゃ大事な存在なんだよ」

 フジタカの漠然とした質問にチコも困りながら答える。私だって、今の質問にはどう答えていいか悩むもん。

 偉い、という事ではない。トロノでは寧ろ召喚士の方が買い物で割引されたり、町の人も優しくしてくれた。

 一線を引いている、という表現の方が近いかも。下手に踏み込まない距離感で、ちょっとの時間とお金で召喚士やその向こうの魔法使いになる力を得られる……かもしれない人間にしてくれる。それを未だに信用していない人もいる。だから当然、無理強いなんてしない。親が子の将来を願うか、子どもの頃から力を求めるか。少なくとも力なんてなければ、と嘆く人を見た事はない。……セルヴァから出て、トロノくらいしか知らなかったせいでもあるけどね。

 「よく眠れたか」

 ゆっくりと歩いてきたレブが私の隣に陣取ると、こちらを見ずに質問してきた。

 「うん」

 「それは何より。今日は忙しくなるぞ」

 「ニクス様が、ね」

 私達では契約はしてあげられないから。

 「……で、あの人達はどうするんだ?たぶん、待ってるよな?」

 「うん、契約したがってると思う」

 子連れがやっぱり多い。そわそわと遠巻きに私達を見ているだけでこちらに来る様子は今のところない。

 「整理、しないとね」

 「カルディナさん!……トーロも!」

 私達で取り仕切って良いものか、と迷っていたところに、後ろから声がした。振り向くとそこにはカルディナさんと、彼女の肩に手を乗せゆっくりと歩いてくるトーロの姿があった。トーロの方は珍しく真っ黒に染まった長袖の上着を羽織っている。

 「大丈夫なのか?」

 「フフ……俺を心配するとは、そんなに気になるんだな」

 「あぁ、いや……怪我、だぞ」

 フジタカの質問にトーロが含み笑いを見せる。慌てて捕捉するとカルディナさんの肩から手を放した。

 「分かっている。前に比べればかなり軽い。だが、怪我をしていると知られたくない」

 「うん……」

 まだ朝早いから、噂が広まるまでは時間があった。仮に、ロカにもアマドルとレジェスと繋がりがある人物がいればトーロが狙われる。いなかったとしても、もしかして近所にビアヘロが現れたのではないかと村の人達を不安にさせてしまう。口止めはしていなかったから余計にお医者様から話は広まる。……田舎の小さな村だもん、お昼前には皆知ってしまうかな。あまり長居はしない様に気を付けよう。

 「さ、時間もないから始めましょうか。私達で列の整理をします。貴方達はニクス様をお願い」

 「はい!」

 カルディナさんもあまり休めていないだろうに、しっかりとした足取りで自分からロカの人達に近付いていく。トーロも続いて行ってしまった。私達は連れてきてもらえたけど、勝手が分からないからまずは指示に従う。

 「………」

 ニクス様はあっさりと案内された屋内へ戻ろうと踵を返した。

 「あの……ニクス様。何か準備でお手伝いできる事はありませんか?」

 「準備に必要な物は場所だけだ。他は何も要らない」

 契約者の事、私は何も知らない。いや……ニクス様の事なら、少し分かってきた。

 羽の手入れに時間を掛けている。それだけでなく、服装も含めて身だしなみ全般。食べ物の好き嫌いは言わないけど、魚を食べているところは見た事が無い。基本的には無愛想だけど話し掛ければ答えてくれる。偉そうにふんぞり返って威圧する訳ではないのだけど、口調からは妙に年季を感じた。何歳かは知らない。レブ曰く、人間の寿命の数倍は生きているそうだ。

 ニクス様自身は置いて、契約者とは何か。契約をしてくれる人だけど、どうやってその契約をするのかは知らない人がほとんどだ。質問にも場所だけあれば十分と言った感じ。特殊な紙やペンが要る訳でもないらしい。

 ニクス様が案内された部屋に戻って窓の外を見ると、すぐにカルディナさんが順番に村人を並べてこちらへ案内していた。気が急いてもニクス様は静かに座っているのみ。緊張している様子もない。

 「……」

 「言っただろう、契約者はこういう存在だ。行為に意味も価値も見出していない」

 「うん……」

 本当にニクス様にとって契約者としての力ってできるからやっているだけ、なんだ……。

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