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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
アラサードラゴンと狼男子高校生、海路を往く
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寝る前に。

 「私は感心した」

 加えてレブが続ける。

 「貴様はいつも、あんな思いに耐えながら私に魔法を使わせていたのだな」

 「……あんな思いって、胸の痛み?」

 そうだ、とレブは軽く口を開くだけで肯定した。

 「私は自力で使うだけだった。だから貴様が魔法を使った時に初めて引き寄せられる……心臓を握られる感覚を味わった」

 レブが魔法を使う時は私も魔力を消費していた。レブが今言ったのは逆の事だ。つまり私がレブの魔力も使って、彼の魔法を使わせてもらった……?

 「……だったら、やっぱり私の自力じゃない?」

 「厳密に言えば、今はまだ、な。私の技術を知っていた貴様は、私の体に魔力線を通してその技術を盗んでいる段階だ」

 盗んでいる、か。

 「後ろめたく思う必要は無いぞ。それが多くの召喚士の目標だった筈」

 私の考えを読んだのかレブは私を落ち着かせるように静かに言った。

 「一度はできた。馴染むまで反復すれば、完全に己のみで扱う事もできる。極めれば召喚陣を描くなんて手間は不要になろう」

 召喚士は魔法を教わる事を目的にしている。私も……レブに頼らずビアヘロと戦えるくらいになれるのかな。

 「反復……近道なんてないよね」

 「取り組み次第だな。効率良く吸収すればその分、完成は早まる」

 当たり前の事だよね。

 「じゃあ、私の物覚えが悪いとレブに負荷がどんどん掛かってしまうんだね」

 「今回程度の電撃なら平気だ。存分にやれ」

 椅子から降りて自信の塊の様に腕を組んで笑い、鼻息を鳴らすレブは頼もしい。甘えると頼るは違う。……レブという力の使い方、向き合い方を自覚しないといけない。

 「それに……だ」

 「それに?」

 「貴様に頼られていると思うと、酷く興奮する」

 「……」

 ……そして、レブという異性に対しての寄り添い方も。あんなにどっしりと構えていたのに、彼の尻尾は揺れて床を擦ってはザリザリと落ち着きない音を立てている。

 「な、なんだ」

 「酷く興奮してちゃ、魔法を使うのに支障が出ない?」

 「酷くというのは比喩!過剰表現だ……!い、いや、だからと言って貴様を軽んじているわけでは……」

 興奮している部分に補足はないんだね。自ら主張するところじゃないと思うけど、そこが私達との差なのかな。

 「あの……」

 「今日は疲れただろう。もう休め」

 口を開きかけたのをレブの方から遮る。無かった事にしてほしくない、とは言ったけど向こうから止めるのは良い、のかな。掘り下げるべきじゃないって自分でも思ったらしい。

 「レブはどうするの?」

 「私は契約者の番をする。あの二人にはこの建物内を、私は外で不審者を見張る」

 平気そう、だけど任せてばかり。気にしている様子も無いけど余計に悪い。

 「あの……レブ」

 なのに。

 「どうした」

 「少しだけ、お願いしちゃダメかな?」

 扉に向かおうとしていたレブの足を止めさせてしまう。

 「言ってみろ」

 「寝付くまで傍に居てほしい、とか……」

 レブが振り返る。何というか、凄い顔をしてる。私の我儘があの顔にさせたんだ。視線があまりに強烈で私は思わず毛布を額まで引き上げる。

 「……構わん」

 だけどレブは引き返す。足音が少し近付き、再び椅子に座ってくれた様だ。

 「割り振りの話をしたり、また見張りを任せたりして……」

 「眠れ」

 謝ろうとしたけど、レブは一言で私を黙らせる。そっと毛布を捲って彼を見ると、灯りをぼんやりと眺めていた。ぼんやりと、ではなく何か考えているんだろうけど。

 「……おやすみ、レブ」

 「………」

 レブからの返事は無かった。

 「………」

 それからどれくらい時間が経ったかは分からない。でも、私はまだ寝付けずに何度か寝返りを打っていた。

 「……これは独り言だが」

 無音だった部屋で急にレブの声がした。私は咄嗟に返事をしようとしたけど、どうにか思い留める。

 「貴様が私を通して魔法を使った時、懐かしい感覚だった。この世界へ召喚された時にも感じた、手を包まれて引っ張られる様な温もり」

 あの時、私も声が聞こえただけではない。レブに手を包んでもらえた様な気がした。

 「今更かもしれないが、やっと……もっと、貴様と深く繋がれた気がした」

 「………」

 そう感じたのは私一人ではない。貴方一人でもない。私達二人だ。

 「……おやすみなさい、で合っているのだったな」

 返事をしたかったけど、レブは最後の独り言で止めて再び黙ってしまう。あまりに遅い挨拶を聞いて、私は何故か胸の鼓動がやたら速くなっていた。

 それから私が寝付くまで、レブは何も言わずに部屋に居てくれた。

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