確保。
普段レブが魔法を使う時、私はレブに自分の魔力を吸い取られる。どうしようもない力で心臓を引っ張られて生気を抜かれる感じ。それを、今自力だけで再現した。レブからの引っ張られ方と違うから私は違和感を覚えたんだ。
「う……!」
際限なく心臓を引っ張る様な痛み。それは自分で心臓を握り潰すと同じ事。私は思わず力を緩めそうになった。
しかし、視界が開けてきて私は見た。スライムへ紫に光る電流が走り、ゴーレムが岩の体を痙攣させて苦しんでいるのを。フジタカは私のすぐ隣で岩や矢が跳弾しないか警戒してくれている。
「まだ……!」
だったら最後まで頑張らないと……!嫌な汗が頬を伝わり滴り落ちていく。それを拭う余裕も無く、私は抜けそうになった力を再び込めようとした。
「無理をするな、と言った筈だ」
レブの声が聞こえた気がした。直後、私の手が何かに包まれてスライムから抜ける。
「あ、え……?」
実際には何も私の手を包んでいない。私が自力で引き抜いたんだ。途端にチコの出したスライムが弾け飛び、辺りに粘液を撒き散らす。
「犬ころ!仕上げろ!」
「あぁ!」
ガクン、と体から力が抜けた。浮かせた手を地面につけて、なんとか自分を支えて私は倒れないでいられた。息が、続かない。フジタカがスライムだった粘つく水溜りに足を突っ込んで走っていくのに、私は動けなかった。
「はっ……はっ……!はぁ……」
深く息を吐き出してなんとか呼吸を整えていく。その間にレブがゴーレムの核を踏み砕く。フジタカがもう一体の核を剣で叩き壊してくれた。すぐにトーロも追い付いて、三人のインヴィタドは奥へと駆け出した。
「待……!」
立ち上がろうとして、石に足を取られてそのまま転んだ。切ってはいないけど顔を打った痛みは私の意識をよりはっきりしたものへと戻してくれる。
「急に動いちゃダメよ」
「でも……!」
カルディナさんが私の肩を支えてくれた。力を抜いて呼吸に専念できて楽だ。だけど、そうは言っていられない。
「う、うわぁぁぁぁぁあ!」
「来るな!来るなぁ!」
聞き慣れない、二人の男性の声が聞こえた。その直後だった。
「うっ……!」
「トーロ!」
ドンッ、と鈍く大きな音が聞こえた同時に苦悶の声が上がる。それがトーロのものだと一番に気付いたのはカルディナさんだった。私もすぐに立ち上がって、先行したインヴィタド達を見る。すると、トーロの肩から一本の影が伸びていた。
「ぐっ……あ、ぁぁぁぁ、ありゃあ!」
あろうことか、トーロは肩から生えた影、自分に刺さった矢を引き抜いた。すぐに彼の体からは短い間だが、血が吹き出る。
「カルディナさん!」
「ええ!」
私が自分の鞄から包帯と消毒液を取り出してカルディナさんへ手渡す。すぐにカルディナさんは尚も召喚士を追うトーロの元へと向かった。私も召喚士の二人を捉えなきゃ。
「……共に行こう」
続いてきてくれたのはニクス様だった。
「ニクス様……。はい……!」
私の気持ちを汲み取ってくれたのか、二人でレブとフジタカ、そして召喚士を追う。チコはまだ動けないみたいだった。
「レブ……!」
「随分早かったな」
既にレブは召喚士の一人を捕まえて、背中を踏み付けて拘束していた。すぐにニクス様が縄を持って渡すと、レブはグルグルに召喚士を縛り上げた。
「レジェス・セレーナ……」
「くっ……!」
私が名前を呼ぶと目の前に座る男は顔を背けた。肌は浅黒く細身で、茶髪の男性は前にトロノで見た人物で間違いない。……今はとても殺気だって別人かと思った。
「フジタカは……」
「まだ仕留め切れて……いや、終わったな」
フジタカの姿を追うと、彼が縄を付けたナイフを投擲した瞬間だった。ナイフは走って一人逃げていた男の足を捉えて見事に転ばせる。そのまま縄で動けなくしてこちらへとズルズル引き摺ってきた。
「放せ!放せっての!このぉ!」
「うるせぇ!じたばた暴れるんじゃねぇ!」
手助けが要るかと思ったけど、フジタカは力強く連れてレジェスの隣にもう一人を放り投げた。間違いない、レジェスと一緒にトロノへ来たアマドル・マデラだった。
「痛っ……!しつけーなテメェも……!」
「狼ってのはな、狙った獲物はしつこく追い掛けて仕留めるんだ!ナイフで消せないなら、この目で追って、それでもダメなら匂いを頼りに鼻で追う!」
「くっ……ちっ!」
舌打ちをしてアマドルもレジェスへ背を向ける様に俯いた。包帯を巻いたトーロや、カルディナさんもチコを連れて集まってくる。




