ぶっつけ作戦。
「強力なのを呼べるなら何でも呼びたいが……俺の召喚ならお前らも見てるだろ」
チコの召喚って言ったらフジタカ以外だと……。
「……スライム?」
「そうだ」
まさか、と思って言ったのにチコは頷いた。
「スライムなんて出してどうすんだよ!あの腕を叩き付けられたら簡単にプチっとなっちまうだろ?」
だったら俺が飛び込んだ方がまだ良い、と言わんばかりにフジタカも唾を飛ばしながら口を大きく開く。
「目的はスライムで手数を増やす事じゃない」
「ふむ」
いち早くチコの意図を読み取ったのはレブだった。
「一か所に集めたゴーレムの核にスライムを纏わせ、あの軟体に私の雷撃を流して一気に仕留める……。さしずめ、そんなところか」
「ゴメーサツ」
チコがニヤリと笑ってレブを見る。
「俺が魔力をほとんど消費していない状態だ。だからありったけの魔力で巨大なスライムを敵のど真ん中で召喚する。あとは……」
「無理だろうな」
自信満々に言うチコにレブがあっさりと言い放つ。
「は!?お前、なんで……」
まさか断られると思っていなかったのかチコも話を途中で止めて声を荒げる。その間もトーロとニクス様はゴーレム達の動きを見張ってくれていた。
「スライムにはどちらにせよ消えてもらう。二体の中央へ先に陣取らせて、私はどうする」
「だからそのスライムへ一気に……」
「……スライムの核が先に潰れる?」
私の思い付きにレブが肯定する様に鼻を鳴らした。
「あ……」
チコから表情、血の気が引いていく。
「じゃ、じゃあもう……」
「そう焦るな」
諦めそうになるチコへレブがこれまたゆっくりと語る。悠長な事言っている場合じゃないのに。
「着眼点は悪くなかった。スライムを纏わせるまではやれば良い。少なくとも、止まれば一体くらいは潰せよう」
「でもそれじゃあ……!」
「一体残る」
片方でも倒してしまえば、後はどうにでもなるって事?でも、相手が最初に使った召喚陣が残っていたらまたゴーレムが来るかも。だったらインヴィタドを増やされる前に勝負をつけるしか……。
「二体倒したいのなら、スライムを中央、私を端に配置しろ」
そして、とレブが私を見上げる。
「もう片方の端には貴様に立ってもらう」
「は……えぇ?」
急に私の手を掴み、レブが言った。
「お前!ザナに敵陣へ突っ込めって言うのか!?」
フジタカが叫び、他の面々も私達を見る。
「どうしたらいいの?」
「ザナ!そんなのダメだって!」
チコも言うけど、私は聞いてみたかった。どうしてレブがそんな考えに至ったのか。そうする事で、本当に私達が相手に勝てるのか。最初こそ驚いたけどもう大丈夫。心構えはしてあるから。
「やる事はそう難しい事ではない」
レブの前振りに私はこんな時なのに笑う。という事は、レブにとってはともかく、私からしたら絶対に無茶だ。
「私と貴様が両極に立って、スライムの粘液がゴーレムの核を被覆したと同時に二人で電撃を流す。これならば二体同時に撃破も可能だ」
ほらね。何を言い出すかと思って期待したらこれだ。
「よし、やろう!」
私とレブがゴーレムとの距離を目測し始める。
「って、おいおいおい!何言ってんだ、このデブ!」
「そうよ!貴方、ザナさんに魔法を使えって言ったのよ!?」
フジタカとカルディナさんも声をひっくり返してレブに詰め寄る。本人は煩わしそうに目を細めた。
「だったら他に手があるか。私は、この状況で最も勝率の高いやり方を提案しただけだ」
「……ザナさん、魔法が使えるの?」
カルディナさんはレブに言い返すのは止めて私の方を見る。その目線は鋭い。
「……いいえ。自分から試した事も、レブから教わった事もありません」
「だったら!どうして安請け合いするの!実験もしていないのにいきなりだなんて、そんなの認められません!」
カルディナさんの高い声が現実を突き付け耳に冷たく響く。だけど私は落ち着いていた。
そう、レブの発言は確かにあまりにも現実離れしていた。召喚士見習いの私がいきなり、召喚士の到達点である“魔法を自力で発動させる”という偉業に挑めって言っているんだもの。異世界の技術を伝授するなんて機会に恵まれる召喚士はそう多くない。
「でも、やります!私とレブにやらせてください!」
無茶だとしても、私の決意はもう固まっていた。レブが言ってくれたんだからできる気がする。本当に今の私には絶対にできないと言うのなら、きっとレブはそもそも最初から提案したりしない。私が頑張れば届くところにはある……筈。




