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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
アラサードラゴンと狼男子高校生、海路を往く
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夜更かししたい気分。

 命令に対して従った事への礼よりも、温かみを感じられた気がする。誰も買うな、なんて言っていない。引率だって引き続きカルディナさんだ。頼りにするというか、任せられるのはこの人しかいない。

 「にしても……暮れたら本当に何も見えなくなりそうだな」

 チコが暗くなっていく空を見て呟く。陽は射していたが今日は雲が多かった。夜も天気は変わりそうにない。気温はその分下がらないと思う。

 「昼夜逆転生活か……」

 フジタカも尾から力が抜けて鼻を切なく鳴らす。

 「お肌に悪いな」

 「レブは鱗でしょう」

 「貴様の話をしているに決まっているだろう」

 ……つまり?

 「気にしてくれるんだ」

 「……気にするのではないか、と思っただけだ」

 そういう事にしておきましょう。認めないだろうし。

 「お肌を気にして死にたくないもん。頑張るよ」

 レブがチラ、と私を見た。

 「……気にする余裕を与えられるよう、善処しよう」

 言って、レブは率先して前を歩き出す。体調も含めて心配してくれてるんだろうな。

 「火は要るか」

 レブが最前を歩くトーロに声を掛ける。

 「あまり夜道で目立ちたくはないが……」

 しばし迷ったトーロだったが、近くに生えていた長い木の枝をへし折る。天気が良ければ、星明りだけでも光源は確保できるんだけど今日は難しい。

 「火を」

 だから焚き火を灯しながら歩くしかない。道はとりあえず整備されているため、下手に動かなければ迷う事はない筈だ。

 「ぶあっ!」

 レブが口から短く炎を放射する。そこに油を染み込ませた布を巻いた木の枝を掠めさせた。すぐに燃え移り、勢い良く火は風に揺れる。

 「すまんな」

 「夜に目が視えないとは不便なものだな」

 火を灯すとほとんど同時に陽が沈んだ。地平線の向こうの微かな橙の光も徐々に吸い込まれ、消えてしまう。

 代わりにトーロの持つ松明が道を照らす。向かう先は一日では着けない。焦っても仕方がないが確実に一歩を踏み締めるしかなかった。

 「なぁ。今日から夜通し歩いて、日中は寝るんだよな?」

 「そうだぞ。皆で決めたろ」

 フジタカの確認にチコが頷く。剣を提げているとは言え、まだまだ警戒はしていない。後ろを振り向けばまだまだコラルの港町が見えているからというのもあるのかも。

 「俺のせいだよな……」

 フジタカは背負った剣の柄を握ったり、離したりを繰り返している。今はまだ私達の他には誰もいないのに。

 「ナイフを使えないお前にできる事ってなんだろうなー……」

 チコが曇り空を見上げて唸る。剣や体術は私よりもよっぽど立派にこなすけど、インヴィタドとしてみればトーロやレブには劣る。魔法に至ってはさっきのリッチさんどころの話ではない。まったく使えないんだから。

 「……ないな」

 「本人を前に言うなよ!?」

 チコの導き出した答えにフジタカが声を荒げる。騒いだ方が害獣は寄ってこないけど、静かな夜道では何事か身構えてしまう。

 「夜に穏やかに寝たいの我慢してるのは皆なんだぞ」

 「分かってるさ。相手の思うつぼに敢えて乗るんだろ。……けど、やっぱり夜は寝たいじゃん」

 皆で夜にぐっすり眠る方法、か。それなら……。

 「ならば、一刻も早く脅威を取り除く事だな」

 ……レブと同じ事考えちゃった。影響されてるのかな、私も……。

 「日中なら一撃なのにな」

 「俺が寝不足でヘロヘロしてなきゃ、だけどな」

 フジタカは寝坊って印象はない。むしろ私よりも早起きな日が多い。

 「おとなしく寝たいのは私達も同じ」

 「だが、それで殺られてはかなわん。……結局、旅に見張りは必須だしな」

 やっぱり旅の経験者が言うと違うよなぁ。私達はまだまだ知ってる事が少ない。

 「……話は変わるけど、インヴィタドってこうして見ると多いんですね」

 知らない事の一つとして、トロノに着いてからずっと思っていた事だ。私達にとって身近だったのはいつもビアヘロばかり。当然、悪い意味で。

 一方でトロノへ来た私が見たものは、トロノ支所に通うたくさんの召喚士達と、そのインヴィタド。ティラドルさんやセシリノさんをはじめとした会話できる者、できない者や無機物まで。セルヴァでは見た事のない異形達が町の中を歩いていたんだ。コラルでは商売を営むインヴィタドと知り合いになってしまう。様々なビアヘロも見てきたが、最近ではインヴィタドの方が多種多様に見ている気さえしてくる。

 「そうとは限らぬぞ」

 「え……?」

 だけどインヴィタドであるレブの方から私の考えは違うと言われてしまう。前を見たままのレブの声は淡々としていた。

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