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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
アラサードラゴンと狼男子高校生、海路を往く
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買わせ上手と買い物上手。

 その返事は、きっと眼鏡の提案をした時から決まっていた。

 「……度が合う眼鏡……頂けるかしら……」

 「ヘーイ、毎度ありぃ!」

 屈してしまった。押し切らせてしまった。リッチさんが盛大に手を打ち鳴らす。トーロは何も言わずにカルディナさんへ財布を返した。

 およそ半刻。鏡石の中から自分の視力に合った度を探し、新しい固定枠へと嵌め込まれた。……枠も買ったから余計に値も張ったみたい。

 「……どうかな?」

 「なんだか恰好良いです!」

 前のもよく似合っていたけど、今回は以前の様に丸みを帯びた枠ではない。どちらかと言うと角ばっているのだが、あまり他で見ない眼鏡だったせいか余計に洗練されて見える。

 「眼鏡がなくてもカルはキレーだと思うけどな!」

 「お世辞は止してよ、リッチ」

 カルディナさんも新しい眼鏡を気に入ったのか口の端が少し浮いている。

 「リッチは手先と口先は器用だからな。トロノのドワーフにちょっと教わっただけでコツを掴んだら、こんなもんよ」

 「口先は余計だ!……ま、武器は手入れと修理くらいしかできないがこういう装飾品や小物にも凝っちまってさ!」

 眼鏡の枠はリッチさんの手作りなんだ。確かに、並べられた他の商品には耳飾りや首飾りもある。男性的な武骨な物から、女性的な華美な物も揃えられているけど、若干女性向けの商品が多い様にさえ見えた。

 そしてミゲルさんの言ったトロノのドワーフ、と聞いてフジタカが反応する。

 「セシリノのおっさんを知ってる……?トロノにも来てたのか」

 「俺達は売る場所と欲してる人がいればどこにでも行くさ。あそこの商人連中で知らないやつはいねぇよ」

 ほぉ、とレブが声を洩らした。

 「ならば、果物屋も知っているのだな」

 「ルナさんか!元気してんのかな?」

 リッチさんが果物屋、と言っただけでルナおばさんと即答してレブが目を見開く。本当に皆と顔見知りなんだ。

 「でも老けたよなぁ。もっと前は……美人ではなくとも可愛らしかったっつーか」

 「あの婦人を馬鹿にするのは私に戦を申し込んでいるのと同義だ」

 ……レブって年齢の話題には敏感だよね。初対面のミゲルさん相手にも容赦ない。

 「へへ、アンタはルナさんとあそこの果物が好きだったんだな」

 「……何を言っている」

 否定しないんだもん、分かってるよ。

 「貴様も何を腑抜けた顔をしている」

 「別にー?」

 「………」

 レブの顔がどんどん何か言いたそうに歪む。何かに好意を表すのが下手なんだもん、嘘で嫌いとは言わないし。だからこういう時のレブは黙って私を睨むんだ。……たまに直接的に言われると照れ臭いんだけどね。

 「コラルの次はアルパに行こうと思ってたんだ。トロノにも寄るから、その時に話しとくぜ。紫のハネトカゲがおばさんに会いたがってたってさ」

 「別れは済ませた。その必要はない」

 強がり言って、気にしてるくせに。……なんて言ったら怒り出すだろうな。

 「でも貴方達、聞いてるんじゃないの?今アルパは……」

 「こんな時だから行くんだって!ピエドゥラにも用はあるしな!」

 不敵にリッチさんとミゲルさんが笑う。アルパの現状を知った上で行くと言うのなら止めはしない。この二人ならなんだか大丈夫だと思えてくるし。

 「お前達も気を付けろよ。……大事なのは生きてる事だ」

 「死にに行くつもりはないわ。守る為に行くの」

 「分かってるならいいさ!元気でな!」

 「二人もね」

 カルディナさんは二人に手を振って一番に歩き出す。私達は頭を軽く下げてから続いた。

 「……はぁ」

 速足でコラルから出ようとするカルディナさんに最初に追い付いた私が聞こえたのは溜め息だった。

 「何かあったんですか?」

 「あ……聞こえちゃった?」

 振り返って言うから私は頷いた。

 「思いの外……財布に響いて。当然、トーロの錆止めと違って経費じゃなくて実費から出してるし」

 「あぁ……」

 新しい眼鏡を押さえて一言。似合っても相応の代償を支払っているんだもん。

 「あの二人の前でこんな顔したら他にも買わされるか、落ち込ませてしまうからね」

 気を遣ったんだ。

 「それに、ごめんなさい。私の都合で時間を取らせてしまいました」

 露店通りから離れたところでカルディナさんは立ち止まり、私達に頭を下げる。

 「……目の調子はどうだ、カルディナ」

 トーロが前に出る。

 「え?うん……度が高くなったのは間違いないけど、前の眼鏡と比較しても楽よ。」

 「結果、無駄な買い物にはならなかった。ならいいさ」

 ニクス様も頷く。チコとフジタカも不満はなさそうだった。

 「でも……」

 「それに、よく似合っている」

 「……ありがとう、トーロ」

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