転職で天職?
「海水浴が盛んなんですか?」
「ははーん、ザナちんは内陸の地方出身者か。色白いもんなぁ!」
元々色黒ではないけど、やっぱり見た目で分かっちゃうんだ。ミゲルさんに笑われて少し日焼けしようかなと思う。日焼けが嫌ってわけでもないし。
「解説してやりたいところだが……シルフの便りで事情は聞いてるぞ!らしくない無茶したもんだな、カル!」
リッチさんが遠くへ視線を流しながらボソリと呟く。口元には笑みが浮かんでいるのに、目だけが真剣になってこちらの気が引き締まった。
「契約者を狙う召喚士が現れるなんて、普通考え付かないもの。強硬策の一つや二つ、用意しないとね」
「で?何をどうする気だい?」
ミゲルさんも頭を掻いて話に加わる。向こうも完全に知っているわけではないらしい。
「話しても良いけど……協力してくれるの?」
「荒事は御免だねぇ!僕達にできるのは、買い物のお手伝いだけ!」
先程までやたら親切だったのに急にリッチさんも反応が淡白になる。
「一緒にビアヘロと戦った事もある仲なのに?」
「えっ」
負けじと笑みを顔に張り付け店へ身を乗り出すカルディナさん。あまり目に出る印象がなかっただけに、今日の強気な姿勢が新鮮に映る、。
しかし、話の内容に私は思わず声を上げてしまった。二人の顔がこちらを向く。
「意外って思ったんだろ、ザナちん!」
「当たり前だろ。おっさんみたいな……その……」
「太っちょは戦えないって?言ってくれるねぇ!ハッハァ!」
庇う様にフジタカが入ってくれたけど、リッチさんは笑うだけだった。
「確かに僕ね、戦いはてんでダメダメなんだよねぇ!」
「……じゃあ、魔法が得意とか」
チコが言うけどリッチさんは目を伏せて首を横に振る。
「もちろん使えるけど、ちょっと魔法で火を出すくらいしかできないんだ!」
「焚き火するには十分なんだけどな」
火しか出せなくて戦えないインヴィタド。言っては悪いけど……召喚士からしたらあまり、取り柄はなさそう。
「で、まぁ……俺も一応少し前はビアヘロ退治に命を燃やす召喚士だったわけ。だけど呼び出したらコイツが現れたのよ」
「そうは言うけど勝手に呼んで、怪物と戦え!なんて理不尽と思わない?」
「うんうん」
そこはフジタカだからこそよぉく分かっているんだろうなぁ。レブはまだ口を閉ざしている。
「そんなこんなで……こう、しばらくはビアヘロと戦ってたりもしたんだが……」
「次第にミゲルと意気投合しちまってさ!そういうのは止めて、自由気ままな行商召喚士へ華麗に転職!」
「気ままって言うには勉強する事だらけだったがな……」
ミゲルさんは苦笑したけど、聞いた事のない例だ。……周りを見ても、やっぱり商人に獣人なんていないし。
「やればできちまうもんだって!ここの居心地は最高だしな!」
「そのおかげで太ったしな」
「うっさいわ!」
言って二人で笑い合う。笑顔の絶えない人達だなぁ、本当に。
「付き合いは長いの。知りたがりの癖に面倒くさがりだけどね」
「手厳しい!」
カルディナさんの表情が自然とさっきの船舶停を出た時よりも明るくなっている。……旧知の二人に元気を分けてもらったのかな。それは少し分かる気がする。
「ところでカルぅ~……眼鏡、調子どう?」
手を合わせ、揉みながらリッチさんが甘えた声を出す。明らかに商談へ持って行こうという魂胆が見え見えだけど。
「……ちょっと、度が合わなくなってきたみたい。さっきも少し……」
眼鏡を外してカルディナさんは顔をしかめる。そう言えば、名簿を見終わった時、辛そうに目頭を押さえてた。
「ミゲル、鏡石は?」
「用意してますとも!」
言って、すかさずミゲルさんが眼鏡を二つ取り出した。
「……別に、今でなくても」
「ちっちっちぃ!あまぁい!」
隣の店や道行く人も顔を向いてしまうくらいにリッチさんが声を張る。
「なぁカルぅ……これから戦いに赴こうっていうのにそんな備えで大丈夫なん?」
「いざって時に目が見えなかったせいで契約者に何かあったら……困るっしょ?」
「そ、それは……」
ニクス様を見ると目が合った。だけどすぐに背を向けられてしまう。……慌てさせたかな。
「トーロちんは不測の事態に備えて自身の武器を万全に使える様、錆止めを買ってくれたのになぁ……ねぇ、トーロちん?」
「ぐ……。あぁ」
トーロも話を振られたくなかっただろうな……。買ったのは私達も目の前で見てたから否定もっできないし。
「インヴィタドに注力するのはいいけど、自分の事も大事にしない?それが周りを大事にする事にも繋がると思わない?」
「買い時は今だよ!今ならリッチ印の眼鏡拭きも付いてくるっ!」
「うぅ……」




