ツルツル、モフモフ、パタパタ?
カルディナさんが謝ってくれるけど、フジタカはニコニコ笑いながら首を横に振った。
「地面に足が接地してれば、それだけで俺はいい!だから大丈夫っす!」
私も同じ。地面を踏み締めていられる。船旅三日と徒歩三日だったら、絶対楽なのは徒歩だと思うもん。船に慣れたら変わるのかな……。
「では、夕方にはコラルから出立し、万が一襲われても一般人へ被害が出ない様にしたい。……頼めるか」
ニクス様が皆を見渡す。異見を述べる者は誰もいなかった。
「では、すぐにでも行きましょう。トーロ、また」
「あぁ。また」
カルディナさんは立ち上がり、すぐに外へ向かう。振り返らずにトーロへ一言だけ告げて、相手も同じ様に短く返す。……少し、羨ましいかな。背中を預け合っている感じが。
「私達も行くぞ」
「うんっ」
レブに背中を任せてもらえる時、なんて来るのかな。……来たら、いいな。
もう戻らない前提で荷物も担いで私達は船舶停へ向かった。その道中でも話は絶えない。
「あそこに居るのは……」
「トーロじゃないよ」
人が行き交う通りの向こう、椅子に腰掛けて海を眺める牛獣人の背中が見えて、私は足を止めかけた。だけどカルディナさんはスタスタと歩きながら違うと断言した。
「あ、本当だ……」
遠くで立ち上がった牛獣人は恰幅こそ良いものの、上半身は裸で背丈はトーロと似ても似つかない。そもそも、今は買い出しに出ているのだから他の二人がいないのもおかしい。
「たぶん、船の積み荷を運搬するためのインヴィタドだと思う」
「力仕事用に召喚したのか」
「えぇ」
カルディナさんの解説にレブが捕捉する。
「ならば、下手をすれば会話もできん程度の獣人かもしれんな」
「獣人って種類多いよね……どうなってるんだろう」
一口に獣人、と言っても一括りにするとフジタカに止めてくれと言われた事がある。角のある者、羽のある者、毛皮ではなく鱗の者。見た目は同じ犬の獣人でも、片や服装を整えて言語を駆使する者、言語を持たずに本能のままこん棒程度の簡単な道具を振り回す獰猛な者、獰猛だが魔法は操れる者なんて……。私達に必要なインヴィタドかどうかは一目で判断できない場合も多い。
トーロとフジタカを並べても違いが大きい。トーロは若干私達よりも服装に関しては緩い世界で、力が強く魔法も操れる。一方フジタカは魔法が無い代わりに高度な文明が築かれていた世界にいたみたい。同じ獣人、ではあるのかもしれないけど世界が違うのは明らかだった。
「ニクス様は何かご存知ですか?」
ここで鳥人代表としてニクス様に話を振る。……こういうの、馴れ馴れしくないかな?
「……いや」
「契約者にそんな話をしても無駄だぞ。関心が無いのだからな」
「はい……」
やっぱり、私にはまだ早い……。というか、二人が並ぶと沈黙が余計に重く感じちゃうんだよ。
「そう言うレブは?何か知ってる?」
だからニクス様よりは話してくれるレブへ振り直す。レブの口からも聞いてみたかったし。我ながら自然な移行だった。
「……あの世界には竜人しかいなかった。だが、異界では獣人が住む世界に種の偏りはほとんどなかった筈だ」
「うんと……。フジタカみたいな狼獣人だけしかいない世界、トーロみたいな牛獣人だけがいない世界は……ない?」
レブが歩きながら首を縦に動かした。
「そうだ。牛も、犬も、鷲も……。様々な獣人が一つの世界にいる」
「そんな世界が幾つかあるわけ、ね」
少なくともフジタカとトーロのいた二つ以上はあるんだ。カルディナさんも腕を組んで地面を見詰めながら呟いた。
「そうか……。トーロとフジタカのいた世界は完全に別か……。食い違いがあるわけだわ。最初は地方や国が違うだけと思っていたのだけど……」
お互いの住んでいた場所を知らなかったにしても二人は雰囲気からして違うよね。体を鍛えていたにしてもトーロは生きる為だし、フジタカは自身の強さを磨くためって言ってたし。
「魔力供給という餌が有る分、インヴィタドとしては犬ころや牛男よりも賢くない連中の方が御しやすいのではないか」
「力仕事はともかく、魔法の指示がしにくいのが難点なの。言語が無くても強力な魔法を操れるインヴィタドならそれなりにいるでしょうけど」
言っても聞かない相手じゃ、現れたビアヘロのみに魔法を使うのか、その周辺や自分にまで被害が出るまでの威力で発動するかも判断できない。そこは供給する魔力を調整できる召喚士次第だけど、やはり多少威力が落ちても話が通じた相手の方が安定感はある。




