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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
アラサードラゴンと狼男子高校生、海路を往く
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コラル到着。

 だからって何かを話すわけではない。お互い、口数が多い方じゃないし気まずさは無いから平気だった。

 「ふん、ふふ……ん」

 沈黙を先に破ったのはレブだった。聞こえてきたのは鼻息ではなく、韻律を伴った鼻歌だった。

 「ふんふん、ふふん……ふふふ…んふ……」

 鼻歌は続く。一度も聴いた事のない歌をレブは目を閉じ、ゆっくり頭を揺らしながら鼻で奏でていた。

 「ふんふ……ふふんふ…ふ……」

 「………」

 レブは歌が好きなの?レブの世界の歌?意味の込められた歌?疑問は幾つも浮かんだけれど、口には出せない。私が喋った途端、この歌がもう聴けない気がしたから。

 泡より儚く、今にも消え去りそうな声でレブが歌う。いつしか質問するのも忘れ、息を潜めるくらいに夢中でその美しく独特な歌に聴き入っていた。


 それでも、もっと聴いていたいと思っても体が許してくれなかった。

 「デブ……おえ。おえええぇ!」

 「ほら、やっぱり……デブって言われてるじゃ……おぼぉろろろろ」

 「……二人して情けないな」

 翌日も、翌々日もこんな風に食べた物は一通り厠で逆流していた。フジタカもたまに壁一枚向こうに居た。

 「ご、ごめ……うぅっっ!」

 「だからブドウだけにしておけと言ったものを……」

 そうは言ってもお腹は空くし、食べたい気持ちもあったんだもん。涙を流しながらでは何も言えなかったけど。

 こんな地獄の様な日々もやっと終わる。私達は港町、コラルで五日ぶりの大地を踏みしめる事になる。

 「調子はどうだ」

 「まだ……くらくらする」

 着けばすぐに元気になるかと思った。だけど、歩くってこんなに難しい事だったっけ。足元がおぼつかなくて私はフジタカにぶつかった。

 「おわっ!」

 「ごめんフジタ……あぁっ!」

 フジタカも私にぶつかった衝撃で倒れてしまう。振り上がった腕を避けようと身を反らしたら私も勢い余って前に戻れず空を仰いだ。

 「………あれ?」

 「……しっかり立て」

 尻餅をつくと思えば、いつまで経っても痛くない。恐る恐る目を開けると、レブの顔が近い。

 「あ……うん」

 言われて立ち上がる。倒れる寸前にレブが受け止めてくれていたみたい。

 「ありがとう」

 「ふん」

 どういたしまして、とにこやかに言ってくれるレブ。……なんて、想像しても無駄かな。

 「しかし、トロノに戻る際もこうでは困るぞ」

 「そうなんだよね……」

 往来の船の向こう。太陽が照り返す水面の線を見て目を細める。来た道を引き返すとはそういう事だ。まずは目の前に集中しないといけないのに今から先を考えて憂鬱になっても仕方ない。

 「……私の翼が使えればあんな乗り物必要ないのだがな」

 バサッとレブが折り畳んでいた翼を展開する。それを見て、私は首を傾げた。

 「あれ……レブ」

 「なんだ」

 「……翼、大きくなってない?」

 気のせいかな。レブの翼が前よりも広く見える。

 「ならば試すか」

 ふふん、とレブが笑う。そして久し振りにレブは翼をはためかせた。

 「ぬん!」

 「お、おぉ!?デブ!浮いた!」

 チコに引っ張り起こしてもらったフジタカがレブを見て大口を開ける。そう、レブが自力で浮き上がったのだ。

 「この感覚……久し……ぐうっ!」

 「レブ!?」

 得意げに笑っていたレブだったが、突然不時着し、顔を歪めて背中を押さえ出した。

 「つ、つった……!羽が!つった!」

 「………」

 どうしよう。羽ってつったりするんだ。しばらく見ているとレブはなんとか落ち着いて翼を畳んだ。

 「ふ、ふん……!まぁ、なんだ。この状態では久し振りに使ったから少し感覚が鈍っていたか」

 苦しい言い訳だよ、レブ。……私の力が足りないせい、なんだけどね。

 「若くないんだから無理すんなよ」

 「怒るぞ、犬ころ……」

 翼が思いの外使えたからか上機嫌だったレブもフジタカに年齢を指摘されて拳を握る。

 「だって三十路だろー?単位違うけどよ」

 そこで話に加わってきたのはトーロだった。

 「止せ、フジタカ!カルディナが本気で傷付いている!」

 「トーロォ!」

 すかさずカルディナさんがスカートを翻してトーロに蹴りを入れる。ニクス様も身を引いていた。……何歳か聞くのはしばらく止めておこう。

 「いて……!」

 「もう!知らない!」

 「待て!契約者もいるんだぞ……ふふ」

 カルディナさんは背を向けて、荷物も持たずに歩き出してしまうトーロが代わりに荷物を持って追うが、不思議と彼は笑っていた。

 吐いていてそれどころではなかったが、どうやら二人で話し合ったらしい。結果は見ての通り、私がレブの鼻歌を聴いていた日以降、二人の距離感は良い方向に縮まったように見えた。少し荒っぽいけど二人の会話に無邪気な笑顔が現れるようになったと思う。

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