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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
アラサードラゴンと狼男子高校生、海路を往く
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外来種とも言うよね。

 世間知らず呼ばわりされても私達の常識にフジタカは捕らわれていない。

 「召喚術か……。なぁ、ビアヘロっているだろ?あいつらってどこにでも現れるんだよな」

 「そうだね」

 ビアヘロが好き勝手現れる、とは違う。彼らは急に開いた異界の門に吸い込まれてオリソンティ・エラに放り出されると表現した方が近い。

 「だったら、可愛い女の子が風呂入ってるところに現れたりとか、空から降ってきたりとかもあるんだよな?」

 「……ゼロではないよね?」

 「あぁ」

 レブに確認すると彼も同意してくれる。普通、村や町の中にはビアヘロは出ないように結界としての特殊な召喚陣が用意されていた。……そうか、アルパではその陣が何者かに破壊されていた事をフジタカには話していなかった。それを、自力で気付いたんだ。

 「怖いよなー。下手したら、海の中にもいるんだろ?」

 フジタカが船縁から顎を少し突き出して海面を見詰める。私も視線を落として波を見ていたが、言われると海の底で何か光った気がした。

 「……泳げないビアヘロが海中で現れたり、飛べないビアヘロが空高くに出たら……」

 「泳げなければ魚の餌で、飛べなければ地表に叩き付けられ死亡する。単純な話だ」

 分かり切っている、とレブは言いたげに船縁に跳び乗って腕を組んだ。

 「じゃあ、運良く海の生き物がこの世界の海に生きていたら……」

 「餌もあり、繁殖相手もいれば増えているかもな」

 脅威となる天敵は異世界に残し、自分だけ転移してくればそこはそのビアヘロにとっては天国かもしれない。

 「そういうの、帰化生物って言うんだろ?あぁ、でも……帰化生物は人間が余所から持ってくるからこの世界のビアヘロが暴れてもただの事故、か」

 難しい言葉を使ったフジタカに今度は私が疑問を持つ。

 「フジタカの世界でもあるの?」

 「んー。そうだな、外国の魚を川に放したら、その外国の魚が現地の川魚を絶滅させたりとかさ。環境問題で取り上げられたりしてたよ」

 陸地のビアヘロで似た様な話はあったけど、川や海に関して私達は何も知らない。何故なら直接入って調べる術がないからだ。人語を介する水棲生物のインヴィタドなんて私は聞いた事が無い。もし、私と同じ様な召喚士の割合が多いなら、この世界として海がどうなっているか知る者は皆無だ。

 「この海にも、船よりも大きな巨体を持った魚がいるやもしれんわけだ」

 「怖い事言うなよ……うぷっ」

 そこでフジタカの様子が変わった。

 「フジタカ?」

 「へへ……。なんか、考えてたらきぼち悪くなってきた。先に戻るわ……」

 耳も尾も垂らしてフジタカは船室へと下りる階段へ向かう。足取りはまだしっかりしていたが、追い掛けた方が良かったかな。

 「………」

 「………」

 フジタカがいなくなった途端に急に外が静かに感じた。波の音は止まないのに、それ以外が無いせいだろうか。

 「フジタカ、魚は嫌いだったのかな。自分の国じゃ魚の身を切り裂いて生で食べるとか言ってたのに」

 「国に住む全員がそれを好いているとは限るまい。生臭さもあるし、腐っていれば当然腹を壊す」

 腐る、か……。

 「分かっていた事と思っていた。けど、オリソンティ・エラってこういう世界だったんだね」

 絶えず召喚術がどこかで作動し、事故扱いで死が溢れる世界。海に現れた陸上生物はビアヘロ故に溺れていようと救助されずに沈み、腐り、海中生物の血肉と変わる。……そういう部分も知っていなければいけないのに。

 「考え出しても果てはない。哲学と言ってもいい」

 レブに無駄は止めろと言われた気がする。

 「私だって、ビアヘロとしてどこかの異世界に飛ばされちゃうかも」

 冗談のつもりで言ったけど、レブの目は笑っていない。

 「貴様には既に召喚術がある。いざという時でも大丈夫だ」

 「……そうかな」

 上達したかは分からない。だって、私はまだチコの様にスライムも出せていないのだから。

 「それに、私が貴様を繋ぎ止める。必ずだ」

 「……うんっ」

 だけどレブの頼もしい断言は、こういう時にすごく元気付けられる。次も頑張ろう、彼と一緒に、と心から思えるんだ。

 「……時に、貴様は部屋へ戻らないのか」

 それに、話題を変えたがるのは恥ずかしいからかな、と少し予想もできるようになってきたのは進歩だと思う。口に出したら否定されるのも分かっているし。

 「どうしようかな。……なんだか目が覚めてきたし」

 口には出さず、レブの横に陣取る。私だって、これでも貴方の事を見ているんだよ。

 「……そうか」

 それ以上言わずにレブは船縁に座ると遠くを眺めてしまう。私がすぐ横に来ようと、こちらは見ない。

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