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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
アラサードラゴンと狼男子高校生、海路を往く
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夜風潮風天津風。

 甲板に出ると夜風が私の髪を揺らした。少し冷たい風だけど、毛布を被っていた私からすれば火照りを冷ますのに丁度良い。

 「……ふう」

 ……やっぱり、来るべきじゃなかったかな。もう、少し気持ち悪い。

 星空が夜の海の姿を見せてくれる。揺れが私を酷くふらつかせていたが、実際見てみると大して波が強いわけでもないようだった。黒い水の奥底は当然見えず、中に何が居るかまったく分かったものではない。夜の森で木々のざわめきに怯えた事もあったが、一定に押し寄せる波もどこか不気味だった。嵐が来ればこの波が荒れ狂うのは本で知識のみ知っている。容易く客船も沈めて呑み込むというのだから森よりもよほど厄介だ。

 「ザ、ザナ……」

 「……あれ、フジタカ?」

 船縁で限りなく遠い水平線の境界を見詰めていると声がした。振り向くとそこにいたのは呼び出したレブではなく、フジタカだった。

 「大丈夫なの?」

 「……どうにか」

 答えたフジタカは明らかに口を曲げて気持ち悪そうだった。丈の短い服から出た腹を擦りながら私の横に来るが、その前に。

 「レブも。何してるの?」

 「……いや。どう声を掛けるべきかとな」

 船室に繋がる階段の隅で腕を組み、影へ隠れる様に立っていたレブの姿が見えた。正確には角だけなんだけど。呼んでようやくレブも私の隣に立った。

 「どうって……何か言いたいの?」

 「………」

 答えないし。……私がレブだったら、私に何を言うかな。

 「貴様が心配だ。夜風は身体に毒だし、先は長いからもう休め。まだ明日も船旅は続くのだぞ」

 「………」

 「………」

 二人で黙ってしまう。だけどそういう訳にもいかないので私から口を開く。

 「フジタカ、どうかしたの……?」

 「いや、デブの真似してみたんだけど……似てなかったか?」

 低い声を更に低くしゃがれさせたな、とは思ったけどどうかな。判定をレブに任せると……。

 「全く似ていない。論外だな」

 容赦なく切り捨てるし。フジタカも顎と腕を船縁に乗せて拗ねた様に鼻を鳴らす。

 「なんだし……。具合悪いやつに言う事なんて決まってるだろ」

 「……そうだったの?」

 レブの方を見ると途端に目を逸らした。

 「みっ、妙な事を言うな!私が言いたいのはだな!その……この珍しい乗り物の乗り心地がそこまで不快かと確認したかっただけであって……」

 そうか、レブも初めて乗るんだよね。

 「うん……。ちょっと、馬車とは違い過ぎるね。まだ気持ち悪いもん……」

 目線を下へ落とすと、波飛沫が船壁を何度も叩き付け、白く泡立っているのが見えた。その泡がまた、自分の逆流した水や食べ物を連想してしまっていけない。縁に体を預けて海に背を向けると、レブが私をじっと見ていた。

 「……大丈夫か」

 レブからの質問に面食らってしまった。

 「どう、かな……?」

 さっきも確認したけどいきなり吐きはしないと思う。出せる物がお腹に無いからというのもあるけど、夜風で少しだけ気分は落ち着いてきた。しかしレブはまだ私を見ている。

 「無理してないよ?それに、魔力を消費しているわけじゃないしレブに迷惑は……」

 「体調が悪い事に変わりはないのだろう。迷惑とは思っていない。……少ししたら戻れ」

 「うん……」

 魔力はそうだよね、レブはもう自力で活動できるんだもん。私が倒れても他に皆もいるし困らない……。

 「あれ、レブ……」

 「どうした」

 「今の、一回否定したけどフジタカが言った事とだいたい同じじゃない?」

 「…………」

 レブの顔が歪む。

 「だから言ったじゃねぇか……。デブはザナが心配なんだよ」

 体長が悪いから鼻から抜く様に小声で、しかしフジタカは笑いながら言った。

 「出鱈目を言うなっ!」

 フジタカに怒鳴り出す始末だけど、もう変わらないよね……。

 「ありがとう、レブ。ごめんね、弱くて」

 「………謝る事では、ない」

 レブは目を閉じてそのまま私達に背を向ける。これでもだいぶ素直になってくれたのかな。

 「それで、牛すじ肉の召喚士から呼ばれて来たが、何か用か」

 すじ肉って、トーロはレブから見て美味しそうなのかな。トーロはたまにフジタカの背中を見て舌なめずりしてるけど。

 「トーロとカルディナさんはどうしたの?」

 「二人で部屋から出て行った。甲板に居ないなら部屋に戻ったんじゃねぇか?」

 言っても帆の高台に見張りらしき人が見えたくらいで船外には私達しか見当たらない。それだけ夜も深い時間なのかな。

 「そっか……」

 ちゃんと、話してるといいな、あの二人。長くなると私が戻れなくなるかな。

 「あの二人に係る事か」

 「うん」

 私にはレブという話す相手がいてくれる。それを変だと思った事はない。だけど当然と思うわけでもなく、これからを話したい。だから先程船室でカルディナさんと話した内容をレブと、ここにいたフジタカに伝えた。

 「なんか、そう思うとチコは召喚士、なのかもな」

 「貴様よりは、という意味だ」

 「分かってるってば」

 一通り話してフジタカは腕を上げて身体を伸ばした。レブの解説も言うまでもない。

 チコがフジタカに以前言っていた召喚したのは俺だ!という話。それは召喚士がインヴィタドよりも立場が上という主張だ。

 「レブもソニアさんに似た様な事を言ってたよね?」

 「このオリソンティ・エラでは魔力を操れる人間の方が活躍する。インヴィタドはその相手から魔力を供給してもらい、吸い上げているのだ。召喚に応じた以上、言う事ぐらいは聞くのが普通だ」

 中には魔力を奪えるだけ吸い出して逃げ出す凶悪な異形もいるらしい。だけど良心的なインヴィタドであれば、言う事は聞くのかな。

 「俺が世間知らずって事だよな……」

 「隣の異世界だもん。召喚術がなきゃ知らなくても仕方ないよ」

 フジタカには魔法の話をする時は一から話さないといけない。それは自分でも理解できている様で曖昧にしたままだったりするから、私達の勉強にもなる。基礎を抜かした私には余計に必要な部分だと思う。

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