君と話したい。
「言えば良いと思うんですよね、それをトーロに」
「……私が?」
力強く頷いたけど、そうしたら頭がくらっとして気分が悪くなった。まだまだ船酔いの油断はできない。
「だってトーロは真面目なんですよね?付き合いも長いから、カルディナさんが悩んでるのも隣で気付いていると、思うんです」
長く喋っても呂律が回らなくなってくる。
「一番身近な人って誰か分からなかった。……だけど、思い返すとそうね。他の召喚士達よりも、よっぽどトーロと話してる事が多かった」
ううん、とカルディナさんは唸る。
「トーロとは直接繋がってるんだものね……。聞いてくれるかな……」
「私ももちろん聞きます。そして、たぶんですけど、トーロも」
答えるとカルディナさんの表情が和らいだように見えた。
「そうか、ザナさんは最初からインヴィタドと交流してるんですものね」
「えっと……?」
一人で納得したカルディナさんに私は首を傾げる。頭の回転が遅くなってるかな。
「私達、普通の召喚士は……石や自然物、スライムとかから入るでしょ?」
「はい」
意思疎通を必要としない物質のみを呼ぶ方が簡単。だからそうした召喚を重ねて段々と経験を積むのが普通だ。
「だけど貴方達はそれを飛ばした。だから……ある意味私達以上に召喚術、インヴィタドに思い入れを持てるんじゃないかしら」
「思い入れ……」
前にフジタカが言っていた。ザナはインヴィタドの立場も考えているって。……自覚は無いけど、思い入れとかじゃない。そう、当たり前に彼らを受け入れていたんだ、私は。
「……まずい、ですかね」
「いいえ」
私の迷いにカルディナさんは首を横に振った。
「こちらこそ、目線を改めないといけない。……私達召喚士は、召喚したモノに対して扱いが不当……なのかもって少し思ったから」
不当なんて表現をされて私は身を固くした。……レブこそ、私と同じ部屋で寝ていても問題ない事になっているけど一応は、その、異性……でもあるし。インヴィタドと区切る、一緒にするどちらが無難かまでは分からないが曖昧にしてないがしろにはしない方がいいのかな。
「彼ら……隣にいる連中ね。彼らは動植物じゃない。一方的な関係では済まされないのね。魔力の繋がりも、心の繋がりも」
最初は物言わぬ相手を召喚していたから、それがいつの間にか当たり前になっていた。話せるインヴィタドが現れても、同じ様に接してしまっていたというのはあり得る。
「……レブに、会いたい」
自然に口から言葉が零れていた。今すぐレブと今の話をしたい。
……だけど、答えは分かっている。貴様は貴様の思うままにしていれば良いなんて言うんだ。あのつっけんどんなのに優しいドラゴンは。
「私も、トーロと少し話そうかな。せっかくだしね」
カルディナさんが立ち上がると、船が少し揺れた。
「おっと……。ザナさんは、動けないかな。私が呼んできましょうか?」
ありがたい提案だったけど私もなんとか立ち上がった。
「……じゃあ、甲板に。待ってるから来てほしいと」
「分かった。……無理はしないで?」
「はい」
……吐きそうだけど、もう何も出ない。それは分かり切っているからたぶん気分が悪いだけ。自分に大丈夫と言い聞かせて、私はカルディナさんにレブの呼び出しを任せて外へ向かった。




