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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
アラサードラゴンと狼男子高校生、海路を往く
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インヴィタドにも、召喚士にも。

 「だったら、着くまでの暇潰しに少し話さない?」

 「え……」

 カルディナさんからの提案に、自分でも思わずに聞き返していた。こうして雑談を振る様な人だとは思っていなかったもの。

 「あ、体調が悪いなら無理はしないで?」

 「いえ。……少し、起きていたいです」

 「良かった」

 カルディナさんが微笑む。私は深呼吸して自分の体調が多少落ち着いているのを確認した。

 「と言っても、何を話そうかってわけでもないんだけど」

 困った様に頬を掻くので私から気になっていた事を聞く。

 「……カルディナさんは、今回の話をどう思われていますか?」

 「ニクス様護衛に、貴方達も含まれている事?」

 私が頷くとカルディナさんは窓の外を眺める。

 「……自信はなくなりかけてるかな。何が正しいのかって」

 聞きたくなかった部分と、聞きたかった部分が混ざり合っている。私はそのまま受け取る事ができないで話の続きを待った。

 「私達のせい、ですか……」

 「そうは言わない」

 カルディナさんの表情は弱弱しい。言っては悪いが、言わないだけであり、切っ掛けはそうかもしれないと思われている。

 「あは、一応……ニクス様と同行した最初の二年は問題なかったんだ」

 すみません、と謝りたかったがカルディナさんがそれを許さない。

 「……私もだけど、トーロに悪いと思うんだ。どんなに私が嫌でも、私からの魔力がないとここには居られないんだから」

 カルディナさんの目が隣の部屋へ向けられる。この木の板数枚を隔てた向こうにはインヴィタド達とチコがいる。波や船の揺れる音が中心で、私達の会話の内容が全員にも丸聞こえという事はないと思うんだけど。

 「……嫌ならもっと前に出て行ってるんじゃないですかね」

 率直な感想を言うとカルディナさんが目を伏せる。

 「タムズの時も庇ったし……ううん、選定試験の時だってカルディナさんを守ろうと必死だった。……私はトーロの事はよく知らないけど、二人の信頼関係はちょっとやそっとでは崩れないとは思っていました」

 「………」

 カルディナさんの目線が、少し遠くを見ている様に感じた。

 「私、トーロとカルディナさんの話が聞きたいです。……教えてくれませんか?」

 前から興味はあった。……たぶん、トーロとの出会いは私やチコの様な事故ではない。私達が異常な繋がり方をしたとはトロノに居た頃に少しずつ察していった。……少なくとも、召喚士に自信が失くなってしまった話よりは前を向ける。

 「私とトーロの話か……。それも数年前の話になるかな」

 もしかしたら、もう少し召喚士としての自分についてお話したかったのかもしれない。それでもカルディナさんは私の話を優先してくれた。

 「通常召喚、だったんですよね?」

 「ええ。私はトーロと召喚陣の中で出会ったの」

 その時点で私達の知らない領域だ。私が召喚したレブも、チコの呼び出していたスライムも精々手や腕を陣の中に入れたに過ぎない。その中に全身浸かって異世界の住人と対話し、このオリソンティ・エラに招き入れる。それができる召喚士は優秀と評価されて当然だ。そして、カルディナさんはその評価を受けるに相応しい人だと思っている。

 自分にも心当たりがないわけじゃない。タムズに怪我を負わされた私は妙な空間でレブと対話した。一方的な話も多かったけど私はレブに言われた通りの事をしたのをよく覚えている。

 「あの頃のトーロは自分の生き様を見失った、幼い少年だった。だからここへも半ば投げやりに来たの。……理由を深く聞いた事はないけど」

 そこは、会話をできる相手だ。慎重に話を進めなければ関係は一気に悪化する。……あの時、私がレブと二人でいた空間で主導権を握っていたのはレブだったよね、完全に。

 「仕事をするトーロは頼もしかった。来た当初は細かったんだよ?」

 「え……」

 トーロと言えば口数は多くないが筋骨逞しい一人前の雄、という印象ばかりが先行していた。成長過程なんて想像したこともない。最初からそういうもの、と思い込んでいた。

 「根が真面目、とでも言えばいいのかしら。どんどん知識を増やして、必要な事は吸収して、応えてくれた。……私がビアヘロとの戦いや、力仕事ばかり任せていたからあんなムキムキになったのかな……」

 だとしても、あの状態に至ったという実績が今の彼を体現している。

 「頑張ってくれたんですね、トーロは」

 「なのに私がこんな調子なんだもの。トーロも参っていると思うわ」

 カルディナさんの溜め息は長く、深かった。私の船酔いの呼吸とは違う。思い悩んで出る溜め息に私自身も心当たりがあった。

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