ツンデレブ。
「でも、俺そんな色々アレコレできないぞ……」
「これからできる様になれば良いだけの事だろう」
「そうだよ、フジタカ!」
私もレブに同意してフジタカへ拳を握って見せる。
「俺はお前に命を救われた。……お前が失わせた物があったとしてもな」
「………」
ポルさんがそっとフジタカの手からナイフを持ち上げる。
「だからアルパでお前の力を見た時に思ったんだ。お前のできる事、俺が手伝う。俺がお前の“できる事”を増やしてやる!」
「あ……!」
フジタカの手を取り、再びポルさんはナイフを握らせてやる。
「できるかどうか、最後はお前次第だ。……受け取ってくれるか?」
「……あぁ!」
返事に笑みを見せてポルさんの手が離れるとフジタカの手はしっかりとナイフを握り締めていた。
「と言っても、しばらくは会えんのか……」
セシリノさんが肩を落とす。会うのはまだ数回だが、フジタカは彼にとっても魔力を与え続けてくれる召喚士を助けてくれた命の恩人らしい。でも自分の命、と言うよりもポルさんが生きて戻ってきてくれた事の方に感謝してる良い人だ。
「引き留めても悪い。……またお前の力を見せてくれ」
「分かった、約束するよ」
フジタカがナイフを展開する。
「ポルさんが研いだこの刃で、俺が逃げた二人を捕まえる」
「消さないのか」
「あぁ。捕まえて、何であんな事をしたのか吐かせる」
レブの問いに答えたフジタカに迷いはない。返答に満足したのかレブは目を伏せて笑った。
「吉報を待っている」
「またな!」
私達はポルさんとセシリノさんに礼を言って工房をあとにした。
「……良かったな、フジタカ」
「おう!だけど、貰ったからには使いこなさないと」
言ってるそばからフジタカは分解できないか試している。ナイフは二つ折りだから畳む邪魔にはならないけど、アルコイリスの分だけ長くなってしまった。剣も扱うのだから、慣れの問題だと思うけど少し違和感はあるみたい。
「あとは……」
「私達、だな」
レブに頷いて私達は翌日、出発の朝を迎えた。
トロノ支所の前で見送りに出てくれたのは二人。ソニアさんとティラドルさんだった。
「アラサーテ様ぁ……」
鼻をすすりながら言うその姿は泣きそうなのか、朝の寒気に体が追い付いていないか。……こじつけてはみたけど、やっぱり泣きそうだよね。
「もう決定事項だ。覆してまで来る気か?」
カルディナさんとトーロにセルヴァの私達で契約者を護衛する。既にブラス所長から言い渡されていた事だ。……って、ティラドルさんなら本当にこのまま来るかも。フジタカは後ろで眠そうに目を擦っている。
「…………いえ。私はソニアの研究の続きもありますし、アルパの復興もありますので」
「……そうか」
来るかな、と思ってしまったけどそこはしっかりしている。ティラドルさんも根は真面目だし。
「お前のその情けない姿をしばらく見なくて済む。清々するな」
「レブ!」
私が叫ぶとティラドルさんはこちらをなだめようと手を上げる。でも、言い方があまりにも……!
「……ティラ」
「はっ」
しかし、私が続きを言う前に、レブは私達に背を向けてティラドルさんを呼ぶ。
「……留守は任せる。……体は壊すなよ」
「!!!」
ティラドルさんが肩を落とし、首を伸ばして目を大きく見開いた。すごい顔をしているのにレブは背中を向けて歩き出してしまう。
そこに近寄って来たのはソニアさんだった。
「二人とも、気を付けて。……ビアヘロじゃない脅威だって現れないとは限らないって今回で分かったんだから……」
「……はい」
「分かりました」
経験の浅い私とチコにせめてもの助言。対処をするには経験者に聞くしかない。
「カルディナも。……選定試験だけが召喚士ではないんだから」
「分かってるわ。……行ってきます」
カルディナさんの一言に皆がゆっくりと歩き出す。私はすぐにレブに追い付いて、横に並ぶ。
「………」
レブは私を見たけど、すぐに前を向いてしまう。
「……どうかしたの?」
私が聞いてしばらく、レブは答えないまま歩き続けた。しかし、トロノの町を出るとほとんど同時に口を開いてくれる。
「いや、少し驚いただけだ」
「珍しいね?何かあったっけ?」
思い返すと、レブがティラドルさんを気遣う様な発言をしてくれた事の方だ。
「初めて見たものでな。ティラが、私以外を優先したなんて」
「……一緒に行きたかったの?」
レブは首を振った。
「断じて、違う。……だが、来るのだろうなとは思っていたから拍子抜けした。ただ、それだけだ」
レブは今度こそ前を向いてこちらを見なくなってしまう。
私は一度振り返って、トロノの街を遠巻きに見る。セルヴァよりもずっと都会で、人も多い活気のあった町。目まぐるしく過ぎた日々だった、アルパの件で後味が悪い部分もまだあるけど、かけがえのない時間だった。
また戻る。それだけは心に決めて前を向いて私は歩き出した。




