その名はアルコイリス!
ナイフはゴーレムとの戦いで少し刃を研ぎ直したが、刀身に変わりは特になかった。当然、ポルさんや私がフジタカのナイフで何かを切っても消し去る事はできない。
変わったのは柄の部分だ。柄の先部分が伸びて膨らみが追加され、フジタカの手の大きさに馴染んでいる。膨らみの中央には黄金色の金属輪が鈍く光っていた。
しかしそれすらも装飾に過ぎない。注目するべき点は輪の中央に嵌め込まれた石だった。
「……灰色?」
光沢を放ってはいるが、おおよそ彩りが良いとは言えない灰色の石がナイフの柄に座している。フジタカも気付いたのか石を見て、首を傾げた。
「それ、回してみな」
「回す……こうか?」
金属輪に指を添え、時計回りに動かすと輪が回った。それに連動して、中央の石も向きを変える。
「これ……」
「もう一回、見てみな」
セシリノさんに言われてフジタカは目線をナイフへ落とす。すると急に、フジタカの目が見開かれた。
「赤くなってる!なんだこれ!」
フジタカの手を私も覗き込む。彼の言っていた通り、ナイフの柄に嵌っていた石の色が違う。灰色だった石は回転して夕陽の様に赤い色に染まっていた。
「今度もまた、同じ様に回してみろ」
ポルさんの言われた通りにフジタカがカチカチ、と音を立てながら輪を回す。今度は青に変わった。
「すげー!綺麗だ!もしかして……」
「あ、今度は緑になった!」
フジタカが続けて輪を回す。すると緑、橙、紫と次々に色を変え、逆回転させて最後は灰に戻った。
「不思議な石だな……」
一通り堪能したフジタカはナイフの重さを確認してポルさんを見る。
「その石はアルコイリス。オリソンティ・エラの中でも、あのピエドゥラの最奥でしか採掘できない貴重な鉱石だ」
「光の反射じゃなくて、石自体があらゆる色を持っているんだ!」
セシリノさんが解説して思い出す。ニクス様が首から下げていた飾りも確かアルコイリス製だったと思う。宝石の類は詳しくないけど、少なくともトロノでも着けている人はほぼいないと思う程度には希少な石だ。しかもあのナイフに付けられる上に綺麗な球状の状態なのだから余計に価値があると思う。
「……そんな石を俺のナイフにくれたってのか?」
ポルさんが頷く。
「助けてくれた礼だ。命が有ればアルコイリスにはまた会える。だが、命は一つしかない」
「礼だなんて……」
フジタカがポルさんの真っ直ぐな視線に耐えられず目を逸らす。
「そして、お前の力になりたいと思った」
「力?」
チコと私もポルさんの一言が気になった。
「この石、パワーストーンか何かなのか?あ、つまり……持ってると運が上がるとか」
自分から言葉の解説をしてくれて意味が分かった。魔力に感応しやすい、ゴーレムの核とかが好きな応石の話をしていたんだ。
「応石で魔力を上げたいならドラゴンの鱗とかの方がよっぽど良いぞ」
ポルさんがレブを見るけど、本人は腕を組んだまま何も言わない。ポルさんもすぐに目線をレブから外してしまう。……ポルさんも、ドラゴンの鱗を加工した経験がある、って事かな。
「その石は言わば、お前の力を管理するための矯正装置だ」
「矯正……?」
あぁ、とポルさんは頷いて続ける。
「お前がアルパで見せたあの力。あれは酷く危うい」
「………」
フジタカが自分の力を指摘されて急に尾から力が抜けた。
「原理は知らないが、対象への負荷の掛け方に無駄が多すぎる様に見えた」
レブがポルさんを見る目を細めた。興味を持ったか、警戒している。たぶんレブも似た様な考えを持っていたんだ。
「お前は多分、魔力の使い方が上手くない」
「魔法ってのがそもそもよく分かんないもんな」
その割に言葉の受け入れがすんなり行く事が多い。魔力の回し方に慣れてないだけで頭の回転が速いんだろうな、フジタカは。
「説明するものではないというか……。私達はあって当たり前だからな」
レブも困った様に頬を掻く。……そうか、気付いていたけど教え様がないからフジタカにはどうすべきか言えなかったんだ。力加減以前の問題だから。
「その為の、これだ」
ポルさんがアルコイリスを指差す。
「灰色を通常時として使え」
「他は?」
「自分で色に役割を与えて使うんだ。例えば、赤は部分的に消す用に、なんてな」
言うとレブが納得した。
「指針盤代わりにその石を使うとは、随分贅沢だな」
「そこは礼だ」
金属輪が盤代わり、他の色がフジタカの到達点になるんだ。フジタカはまだ理解し切れていないのか、盤を回して色を変えては唸っているけどね。




