続きから。
トロノより北にある森の中に、エルフ達の暮らすアルパと呼ばれる集落があった。ビアヘロにより、一夜にして壊滅したその集落はひっそりとそこに人が住んでいた名残と大きな傷跡を見せて佇んでいる。
「………」
鎮火して、夜が明けてから訪れたアルパは焦げ臭かった。惨状を今日初めて見た召喚士や、比較的軽傷だったエルフ達はアルパを見て嘆息した。
「酷い……」
「もう、駄目だ……」
終わりだ、生きていけない。数々の悲鳴に近い声に耳を傷めながら私は歩いていた。
「着いたぞ」
私の数歩先を歩いていたレブは日光で紫の鱗を光らせて振り向いた。
トロノの朝を二人で迎えて、私達は召喚士育成機関トロノ支所の召喚士達と共にアルパに来ていた。昨夜の事件を処理するには、召喚士四人と契約者ではとても足りない。事態の収拾を急ぐために割ける人員はほぼ、総動員で来ている。
「この岩?」
「そうだ」
竜人、レブは頷き自分の前に転がっていた岩を数度叩く。その岩はレブが昨夜、拳で打ち砕いた物だった。
「………」
自分よりも大きな岩の塊に圧倒される。積み重なって更に巨体だった相手に怯まず立ち向かったのがまるで嘘の様に私は固まった。
しかし見ているだけでは話が進まない、と岩を撫でてみる。何の変哲もない普通の岩で昨日動き回っていたのかさえ、疑わしく思えた。
「………」
ずっと前からここにあった様、とはとても思えない。明らかに風が静かに流れる森の景観を損なう異質な存在。それが突然に、嵐の様に訪れたのだ。
「あれ」
森や倒壊した家を見つつ、滑らかな岩に手を置いたまま少し歩く。するとざり、と嫌な手触りを感じて私は岩に目を戻した。
「……!?」
自分の目に映ったソレが何か分からなかった。違う、何か分かったから、私は震えた。
「どうした」
「れ、レブ……。これ……!」
身を引いて、横へ来てくれたレブへ指差してやる。
「………」
レブが顔をしかめる。
私が手に触れた違和感は岩に描かれた線。それは一本で事足りず、幾つもの線が重なり、大きな円陣を描いていた。個人の手癖に差はあれど大本は同じ、この陣が何を意味するか分かってしまったから私は身も声も震わせた。
「これ、召喚陣……!?」
ゴーレムを構成していた岩の一つに描かれた召喚陣。どうしてここにこんな物があるのか、辻褄を合わせるのはとても簡単だった。
召喚陣があるなら、ビアヘロではない。しかも召喚陣を直接ゴーレムに刻まれているのなら、それは専属契約されたインヴィタドだという事だ。
暴走していた可能性はある。だけど、最初は誰かが、意図的にやったんだ。




