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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
異世界に来ちゃった狼男子高校生の苦衷
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間奏の浪曲。

 デブがザナを抱き留めて声を掛ける。別人か?と思うくらいに優しい声に俺は自分の耳を触って引っ張る。夢でも聞き間違いでもなさそうだった。

 「……さっきのって」

 ちょっと気まずかったが、俺が口を開くとデブの首だけ少しこちらに向いた。

 「私の本気、だ。……持続は数十秒しかできないみたいだが」

 ザナの体がピクン、と揺れた。明らかに立ち眩みなんてレベルじゃない。顔色も悪いし、煙なんて吸ったら余計に悪化しそうだった。

 「蹴りと拳で片付いて良かったな。……もっとも、散らかしたようにも見えるが」

 「………」

 見れば、まだパチパチと火は燃えているし瓦礫なんてとても修復できそうにない。一軒ずつ建て直すなんていったらどんだけ時間が掛かるんだか、予想もできなかった。

 そんな被害を広げるデカいビアヘロをものの数秒でぶっ壊したのがデブだ。……正確には、デブじゃない時のデブっつーか。キックとパンチと貫手で終わらせたんだから……圧倒的だった。

 「見よう見まねでお前の蹴りをやってみたが、一朝一夕で模倣できるものでもないな。あの体術はやはり興味深い」

 言ったトカゲ男はぴょんこぴょんこと効果音が付きそうな足取りでどこかへか歩いて行こうとする。

 「お、おい……!どこ行くんだよ?」

 「トロノの寮に決まっているだろう。私の召喚士を休ませてやらねばならん」

 帰ろうって言うのかコイツ。まだする事は山ほど……!

 「そんなの……」

 「言ったばかりだが、ティラの消火も始まる。お前はこれから何をするつもりだ」

 ……耳を澄ましたが、人の気配は無かった。いや、少し離れたところで声が聞こえる。

 「自分の召喚士と合流し、一度トロノへ戻る方が得策ではないのか。準備もあるだろう」

 聞こえる話し声にチコらしい声がした。多分トーロ達に会えてこっちに戻ってるんだ。

 「………」

 消火は今から。後片付けは夜が明けてから準備をする。たぶん避難は完了した。だったら今からする事は何も無い。そうかもしれないけど……。

 「牛の召喚士。それで構わないな」

 「そうするしかない、か」

 勝手に話を進められて、俺は拳を握り締める。

 「ニクス様も一度トロノへお戻りください。お怪我もされているでしょう」

 ニクス様……って、やっぱり俺も言わなきゃいけないのかな。

 「契約者。……話はまたにしよう」

 「……分かった」

 デブが前に契約者の人と話してたのはザナから聞いた。殺気を放った話し方を今はしてなかったけど、デブの力を見せ付けられてあの人はどう思ったのかな……。

 そこでティラさんの声が空から響く。

 「水よ!森へ恵みを、火へ安らぎと鎮静を与えよ!」

 空で静止したままのティラさんだったが、両腕を広げると共に足元から魔法の陣を展開した。陣はどんどん広がりながら俺達すら照らしていく。

 「……すげぇ」

 陣が輝く青色に炎は上書きされてしまう。見惚れそうになって顔を上げていた俺だけど、デブの舌打ちと始まった魔法で降ってきた水の冷たさに意識を引き戻された。

 「ちっ。これから私が戻るところだというのに、無粋なやつめ」

 言ってデブは燃え移る前の木の下に入ってから、トロノの方へと歩き出す。

 「誤って私の位置に水を放出してみろ!八つ裂きや微塵切りでは済まんぞ!」

 「ご安心を!避難者は安全圏まで退避しましたし、火だけ消してご覧に入れます!アラサーテ様とお嬢様を濡れさせるなど、このティラドル・グアルデ!万が一にも致しませ……ぬっ!」

 陣の下に居た俺達はポツポツと弱めの雨に打たれている様なものだったが、学校のプールくらいの大きさの水溜まりが急に宙へ現れた。そして、ティラさんが力むと同時にあちこちへ飛び散る。

 適当に撒いていると思ったが、実際は違う。的確に炎や火種だけを中心に消している。どんどん火が消え、燃えて出る煙ではなく水蒸気の湯気の方が周りに多くなっていった。

 「ソニア、こんなに魔法を使って大丈夫かしら……」

 ティラさんの魔法も消費はソニア姉さんが肩代わりしているんだよな。だった出し続けただけまずいんじゃないか?走り回って疲れてただろうし……。

 「私の心配をするなんて十年早いわよ、カルディナ」

 「え……ソニア!」

 振り向くと、ソニアさんとチコ、あとはトーロやポルフィリオさんも立っていた。何故か全員ずぶ濡れで。

 「炎の近くにいたからか?思いっきりぶっかかったんだが」

 髪をぺたんこにしてチコが俺に言う。避難者とデブ達以外だったから、かな。

 「……ぷっ!あははははは!」

 「テメ、フジタカ!笑いやがったな!」

 「だ、だって!はは、はははははは!」

 笑えて仕方がない。さっきまで、デブの力にまたびっくりして、何もできなかったと思っちまったのに。髪を肌に張り付けて現れた俺の召喚者や、水を浴びて驚きながらも笑ってる鉱夫達を見て救われたのは俺だった。

 もっと力を身に着けないと。だけど、今は俺達の勝ちだ。

 「帰ろうぜ、チコ」

 「……あいよ」

 帰ったら、まずはあっつい湯を浴びよう。汗を流して、少しは休んでこれからを考えよう。決めるのだって俺一人じゃないんだ。聞ける相手が、ちゃんといるんだからさ。

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