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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
異世界に来ちゃった狼男子高校生の苦衷
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パタダ・イ・プーニョ

 「そうだよね、レブ?」

 炎に鱗を照らされながらもレブは私を見て微笑んだ。……もしかしたら、照り返しで錯覚したのかもしれないけど。

 「その通りだ」

 レブが一度ゴーレム達へ背を向けた。だが、と言ってレブは続ける。

 「私の雷でゴーレムの核を麻痺させ……と、考えていたのは止めにする」

 私もレブにできるとしたら素早く懐に飛び込んで核へ一撃を見舞うものと思っていた。

 「契約者」

 「……なんだ」

 レブがニクス様を見据える。

 「私はこの世界に留まると決意した。その覚悟を、今からこの場で見せてやろう」

 ニクス様へ宣言するとレブが今度は私へ向き直る。口を開きかけたレブだったけど私がその前にニクス様に声を掛ける。

 「ニクス様!」

 「………」

 「ニクス様から頂いた私の……。私達の力、見ていてください!」

 ニクス様の嘴が動いたけど、時間も無い。喋り過ぎた。私達はゴーレムと対峙する。

 「戦うのは私一人だからな、だって」

 「……そうだな。訂正する」

 私の心臓が軋む。レブが前に出るとその体が輝き出した。

 「貴様の力も貸してくれ」

 「良いよ。これは命令じゃなくて、お願い。あのゴーレムを倒して、レブ」

 「任せてもらおう」

 ググッと痛みに胸を押さえる。立っていられない程ではないけど、よろ、と足元がふらついた。

 「ぐ……う…」

 レブの体の輝きが増し、倍以上の大きさで縦横に広がっていく。私は何としても今回は見届けたかった。

 光が足元から消えていくとその姿に息を呑む。大きな翼を支えるだけの広い背中、太い尾を覆う鱗は一片それぞれが炎に照らされ、炎以上の光で輝き返す。まるで、見る者へこのオリソンティ・エラに自分が現れたと主張する様に。

 「………」

 紫竜アラサーテ・レブ・マフシュゴイ。私が召喚したインヴィタドはその真の姿をここで現すと翼を広げ、一羽ばたきして飛び上がった。翼を展開したから飛んだと分かったが、その速度は目で追えない。

 「はぁぁっ!」

 「ガグ……!」

 声がしたと思えば、ダァァン!と大きな音と地鳴りを立てて紫竜がまずは五体満足のゴーレムを蹴り抜いた。胴の岩を足で貫き、地面へと踏み埋める。大きく抉れた地面に岩の先端だけがかろうじて見えた。

 「むぅぅんっ!」

 次の動きは見覚えがある。踏み抜いた左足を軸に紫竜は体を回転させ、右足の踵を打ち出した。崩れかかったゴーレムの頭と肩を回し蹴りで吹き飛ばし、隻腕のゴーレムへ砲弾代わりにぶつける。それだけでゴーレムの右肩と左膝部分が崩れた。

 しかし相手も一筋縄ではない。すぐに崩れた岩、そして彼が打ち込んできた岩も取り込んで再生を始める。スライムとは違い時間がかかるが、できない事ではない。既に岩がカタカタと揺れてゴーレムに集まり出している。

 「ふっ!」

 無論、それを待つ紫竜ではない。瞬時にゴーレムへ踏み込み、移動速度の風圧だけで私の髪は揺れ、思わず目を細めてしまう。

 だけど見逃すことは無かった。彼がゴーレムの頭部分へ溜めた右拳を突き出し、アルパをこんな姿にしたビアヘロを崩す瞬間を。

 「終わりだ」

 拳を引くと紫竜の手中にあった赤い球。美しい紫の戦士はそのままゴーレムの核である球を握り潰す。砕け散った破片を手で払うと、彼は私の元へとゆっくり歩いて戻ってきた。

 「………」

 「………」

 私が彼を見上げて数秒。竜人が再び、先程より少し淡い光に包まれ始める。

 「良く耐えた」

 「へへ、もう限界……」

 彼からの労いに笑って見せるけど、本当は笑える状況じゃない。それでも褒められたら自然に笑えた。

 「ティラの魔法ももうすぐ完成する。貴様はもう、安心して休め」

 もう少し顔を上にあげるとティラドルさんらしき影が煙の奥に見えた。

 「……ねぇ」

 「……なんだ」

 私は目線を下げてもう一度彼の顔を見る。厳つくて、ゴツゴツして、キラキラして、トゲトゲしてる。もうほとんど消えかかっているのにいつもの数倍は迫力が増していた。

 「くす……」

 「可笑しい顔でもしているか」

 自分から言っておいて笑ってしまった。だって、一番綺麗なのは角でも鱗でも、まして翼や筋肉でもない。彼の目だったんだもん。

 「ごめん。……また会える、かな?」

 「何を妙な事を言っている」

 紫竜は片目を瞑り、腕を組んで鼻を鳴らすと姿が霧散して消えてしまった。

 「私は、こうしてここに居るだろうに」

 そして同じ格好でいつものレブが目の前に立って私を見上げて言った。

 「あり、が……とう……レ……」

 そこで私は足に力が入らなくなって倒れてしまう。だけど地面に打ち付けた感覚は無かった。その前に意識も失ったのかな。




 「……戻ろうか、ザナ」



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