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過ごす時間を繋げて。

 「自分にとって君が必要なのと同じだ。この場に居る者全員が、彼を必要としている。そうだろう」

 さり気無く、ニクス様がカルディナさんに対してのみの言葉を使った。だけど皆の気持ちは同じだ。

 「彼は確実にフエンテを呼び寄せる。こっちとしては都合が、良い……」

 ライさんの考えは前と変わっていないのだろう。だけど、口調はどこか上の空というか、別の方を向いていた。もしかして前にも増して悩んでいるのかな。

 「……ライと同じです。多少、思うところはありますが」

 ウーゴさんからすれば、フジタカがビアヘロだとライさんだけが知っていたのは不服だったみたい。こうして行動を一緒にしている以上は得た情報は共有しておきたい、よね。

 この二人は仮に、フジタカがニクス様に同行しないとなれば自分達はフジタカにつくと言ったんだ。決して味方とは限らないが。

 だけどこの二人が抜けられるのは誰が見ても不利だ。だから、この場で今後もフジタカの同行に対して何も意見を表明していないのは残り一人。

 「……俺か」

 トーロは全員の視線が自然に集まって苦笑する。

 「あのねトーロ、黙ってたのは……」

 「言わなくていい。事情は聞いたんだからな」

 手を挙げてトーロは皆を黙らせる。

 「ビアヘロだから、という理由で処断する事もままにあった。それにも例外がある。今回は相手がフジタカだから、割り切れるのだと思う。だが、少し時間はくれ。動揺しているんだ、俺も」

 異世界の住人は召喚陣を通して顕現しないと言葉が通じない。フジタカはフエンテの細工で話はできたけど、トーロはもしかしたら言葉の通じない相手を殺してしまった事があるのかな。だとしたら、今回の話も後味は悪いかも。

 「負担ばかりかけてごめんなさい」

 カルディナさんが自身のインヴィタドへ頭を下げると、彼は笑った。

 「手の掛かる主人ぐらいの方が俺の性には合っているらしい」

 問題は目を覚まさないフジタカだった。せっかく皆が受け入れようとしても、彼の方が動けないのでは話にならない。

 「アイナちゃんの前では元気そうだったのに」

 「やせ我慢をしていたのだろう」

 やっぱり辛かったんだろうな。

 「そうだ、魔力切れだよ問題は!アイツ、放っておいたら……」

 「その心配は要らないと思うわ。話を聞く限り、最初から私の召喚陣は使っていないんでしょう?」

 私とチコは頷く。ベルナルドは適当な誰かの召喚陣の近くで力を作動させてフジタカを置いただけ。

 「今日までこの世界の空気と魔力を浴び続けていた彼なら、魔力が切れても具合が悪いだけで済むんじゃないかな」

 「もっとも、本人にはその具合悪いが堪らないのだろうがな」

 カルディナさんとトーロの考えは一致していたみたい。

 「……基本的にフジタカはナイフを使っても消耗はしない」

 「じゃあ、このまま寝かせておけば大丈夫って事?」

 チコと私も半分は信じたい気持ちを言ってみただけ。まだ半信半疑な部分はあるけど……。

 「無理矢理にでも何か食べさせれば良い。入院のお見舞いにはブドウと白ブドウの入ったフルーツバスケットが定番だ」

 「自分が食べたいだけでしょ」

 バスケットだか何かという単語はガロテに向かう途中で聞いた。知った言葉を使いたがるって、子どもじゃないんだから止めてよ。

 でもレブの言う事にも一理ある。やはり魔力を補充するにはよく休む事、そして食べる事だ。空気を吸うだけでなく、直接魔力を取り込むなら水を飲むだけでも気は随分楽になる。それは私は既に何度も体験している、

 「……話は終わりで良いですか」

 チコが部屋の扉に向かい始める。

 「どこに行くの?」

 「……果物屋。この時間じゃやってないかもしれないけど。やってないなら場所だけでも調べておく」

 止める間もこちらには与えずにチコは出て行ってしまった。

 「心配しているのね、フジタカ君の事」

 「止めますか?」

 確認するとライさんは首を横に振った。召喚陣の用意はあるだろうけど、一人で夜の町を出歩いて大丈夫なのかな。

 「彼の気持ちだ。好きにさせれば良い」

 それで気が済むのならな、とライさんは付け加えてウーゴさんと部屋を出た。少しでも借りを返したいのかな。鞄を直した事や、あの日酷い言葉をぶつけた事とか。

 「自分達も戻るか」

 「あぁ」

 ニクス様も相部屋のレブを伴って席を立つ。

 「何かあれば呼べ」

 「ありがとう。おやすみ、レブ」

 「あぁ」

 やっぱり人前じゃ挨拶を返してくれないんだ。だったらまだこちらにも根気が必要だ。私だって心地好く眠りにつきたいし。

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