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言ったそばから。

 「……そうか」

 チコはハッとして何かに気付いた様だった。しかしアイナちゃんは既に私達から背中を向けていた。

 「皆に知らせないと!召喚士になったって!じゃーね!」

 子犬と一緒に走り去るアイナちゃんの足取りは軽い。放っておいても大丈夫なものか、少々心配にまでなってきた。

 「気が早いなぁ、あの子」

 「召喚士選定試験、懐かしいね」

 チコも苦笑する程の浮かれ様だった。でも、人の幸せな気持ちって相手にも伝わるともっと心地好いんだよね。

 「あの子、昔のザナに似てるよな」

 「またそんな事言う?昨日もレブとフジタカに言われたよ」

 ずっと村で一緒だったチコにまでそんな風に言われるなんて、もしかして本当に似ているのかな……。召喚士になる、って気持ちは強かったけどアイナちゃんはもうなった気でいるし。

 「あ!レブは私のインヴィタドだからね?」

 「念押しせずともそのつもりだ」

 専属契約を結んでいるから誰かに目移りなんてできないだろうけど、言っておかないと。アイナちゃんにも誰にも、レブは渡せない。

 「そうして見ると本当に専属契約って不便だな。常に魔力も食われてるんだろ?」

 「私にはこれが当たり前だもん。気にならないよ」

 チコは私達の中では唯一のインヴィタドを連れ歩いていない召喚士だし、そう思われても無理はない。でも、私はレブと在り続ける。

 「不思議なもんだよな。俺とお前、繋がりなんてないのに今も一緒にいるんだから」

 「……だな」

 フジタカがチコの頼みを聞き入れたから今もこのなんちゃってインヴィタドの関係は続いている。それもチコが力を身に付けるまでの話。

 チコは召喚士としての力を確実に身に付け始めている。だとしたら、それが一定の水準へ達した時、フジタカはどうするんだろう……?彼の横顔を見ても、何か考えがある様には見えない。

 「うん?どした?」

 だけど、今までのフジタカに考えが無いとは思えない。アルパの森でインペットに子どもが捕らえられていた時の機転だって、あの状況で咄嗟に思い付く事なんてなかなかできないし。

 「ううん」

 教えてくれるわけないよね。それに、今聞いたらまるでフジタカに出て行ってほしいみたいだ。フエンテに回る事はないとしてもこの世界で一人、できる事は限られてくる。

 直後、何かが割れる大きな音が響いた。チコ達は音の方向を、私達はニクス様達のいる小屋の方を見た。

 「なんだ!?何が起きた!?」

 「ニクス様は!?」

 周囲もざわざわと騒ぎ出す中、小屋の方は静かなものだった。しかしすぐに斧の柄に手を乗せたトーロが半ば転がる様に小屋から飛び出した。

 「状況はどうなっている!」

 「分からない!」

 「契約者に危険が及ぶものではない」

 剣を抜かん勢いのライさんに私も声を張るが、その隣で落ち着き払ったレブは首を横に振る。

 「聞こえたの?」

 「単に硝子が割れただけだ。……だが、少々後味は悪い」

 どこかで硝子が割れて、レブの後味が悪い?それとも、この場の誰か、私達にとって後味が……悪い。

 「っ!」

 「おいザナ!どこに行く!」

 「現場です!トーロ達は儀式を続けて!」

 私が駆け出すと同時にフジタカとチコ、そしてレブも続いた。

 「全員で持ち場離れて……カルディナさんに後で怒られるよ」

 「後で怒られるのが分かってるなら、後で考えればいいんだよ」

 フジタカだけでも戻そうかと思ったが、本人が騒ぎの中心に向かって走っているのがよく分かる。下手に回り道をするよりも彼に続いた方が確実だった。

 「コール!コールぅ!」

 ざわざわと人だかりができている中で、聞き覚えのある声がした。聞き覚えなんてものではない、つい先程まで話をしていた少女の声だった。

 「……アイナちゃんっ!」

 人混みを抜けると、足元がぱりん、じゃり、と何かの砕ける音が聞こえた。見ると、陽を反射した粉々の硝子があちこちに散らばっている。

 その端で、小さな女の子が何かを抱えて泣き叫んでいた。分厚い毛に覆われた小さな動物は足から真っ赤な液体をガロテの地面に流しながら唸っている。

 「グゥゥゥゥゥゥ……!」

 「コール!コール!」

 子犬の名前だろうか、コールと呼びながらアイナちゃんはコールを必死に揺すっている。怪我をした動物に対してそれはいけない。誰も助けようとしないので私達はすぐにアイナちゃんへ駆け寄った。

 「アイナちゃん、動かしちゃダメ!」

 「いやっ!コールが死んじゃう!」

 手首を掴んでも振り払ってアイナちゃんは子犬、コールを抱く力を強める。自分の服が汚れる事も構わないが、見えた傷口は深かった。すぐ横に血塗れの大きな硝子が落ちていた。恐らく割れた衝撃で飛んできた硝子で足を切ったか、もしくは突き刺さった硝子を抜いてしまったのか。どちらにせよ放っておいて血が止まる様な怪我ではない。

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