人から貰えた刺激。
「ブドウ、食べ終わったなら戻ろうよ。フジタカももう十分でしょ?」
「うむ」
「そうだな。夜に出歩いて職質されたくないし」
何よりも疲れが判断を鈍くする。こうして落ち着いて休める場所を見付けられただけでも今日の探索は成果があったと言える。
「あら、おかえりなさい。見えてたよ、フジタカ君も一緒だったんだ」
「遅くなりました」
部屋に戻ると、出て行った時と同じ椅子に座ってカルディナさんが迎えてくれた。……もしかして。
「ずっと、部屋で休んでたんですか?」
こちらの予想に反してカルディナさんはいいえ、と答えた。
「さっきまでニクス様が来ていたわ。少しザナさんのベッドに座ってたんだけど……」
見ると、確かに一度も腰掛けていないベッドの毛布が一部分だけ凹んでいた。
「気にしないです」
それよりも、二人の時間を作れたのなら良かった。……大人なんだから、自分達で作れそうだけどね。でも、もしトーロがシタァで言っていた様にカルディナさんが要らない気後れをしていたらそれは違うと言いたい。ニクス様が行動を起こしてくれて良かった。
「ガロテの町、どうだった?」
「トロノに居た頃を思い出しました。近くに噴水のある公園があって、綺麗でしたよ」
こちらも視察に出歩いた報告を簡潔に。
「あと、召喚士に憧れる女の子に会いました!フジタカにそっくりな模様の子犬を連れていて可愛らしかったです」
「そう。だったらザナさんは憧れられたんだ?」
言い方を変えて聞かれて困ってしまう。あの子……アイナちゃんは何を見ていたのかな。
「私個人と言うより、召喚士そのものに強い気持ちを持っているみたいでした。レブやフジタカを凄いとは言ってましたけど」
単に人外を連れた少女、という見た目が派手だから凄いと感じたんだと思う。あんなに小さい子が竜人や獣人の召喚難易度を把握してるわけじゃないもん。
「それでも、その子にとってはザナさんも私もその凄い召喚士の一人なんでしょう?だったら、もう少しシャンとしないといけないかな」
肩を回してカルディナさんが姿勢を正す。私は自分が部屋に着いてすぐ使っていた椅子に座ってカルディナさんに言われた事を反芻してみた。
私だって憧れられる召喚士、か。きっと私がアイナちゃんだったらそう見えるんだろうな。
「ガロテで契約者の儀式はやるんですか?」
「ニクス様はそのつもり。やる気もみなぎっておられたから」
だったらまた、きっとアイナちゃんに会える。私も召喚士として頑張ってみようかな。
「カルディナさん、インク持ってましたよね。あと、余っていたら召喚陣用の羊皮紙……分けてもらえませんか?」
先程まで抱えていた疲れがやる気によって見なかった事にされていく。疲れを上書きするだけの集中力を全身に巡らせ、私が訪れたガロテの最初の一夜は更けていった。




