人の振り見て思うなら。
舌足らずな言葉遣いで質問してきた私は体を屈めてから頷いた。
「うん。私はザナ。あなたは?」
「アイナ」
名乗ってくれた少女は手をスカートから離そうとしない。漂わせる緊張感は私にも伝わってくるのでこちらも慎重に言葉を選ぶ。
「えっと……私に何か、ご用事?」
十歳にも届かないくらいの少女は潤ませた目で私をじっと見ている。
「この子!可愛いでしょ!私の一番の友達なの!」
右手をやっとスカートから離すとアイナちゃんは力強く自分の傍らにいた小動物を指差した。私は彼女にばかり気を取られて、後ろに控えていた子犬の姿を見落としていた。
「ワン!」
一声吠えると子犬は尻尾を振ってアイナちゃんの周りをくるくると走り出す。一瞬、インヴィタドかと思ったけどそうではないみたい。よく見ると毛並みの模様がフジタカによく似ている。
「ふふっ」
「人の顔見て笑うのってシツレーだと思うぞ」
自覚はあるのかフジタカも苦笑してアイナちゃんの犬を見ていた。
「お姉ちゃん、犬のいんびたどと竜のいんびたどを連れてるんでしょ!すごい!」
「いっ……!」
フジタカの反応を見るに、どうも自分が人狼である事に何らかの拘りがあるみたい。レブこそ犬ころとかわんころって言っても諦めてるけど、こういう小さい子でも反応してしまうもんなんだなぁ。でも、怒り出さないだけ立派。
「あっちのレブは私のインヴィタドだけど……フジタカ、オーカミさんは違うんだ。私の仲間」
「ふーん?」
アイナちゃんは私の横から覗き見る様に二人の姿を見ている。何かやって、と目配せするとすぐにフジタカは笑顔を見せて軽く手を振る。しかしレブは腕を組んで微動だにしない。あれは絶対扱いに慣れていないみたいだ。
「レブ!と、フジタカ!」
「そうそう」
それぞれを指差してアイナちゃんは二人の名前を覚えてくれた。
「召喚士のお姉ちゃん!」
ザナって名乗ったんだけどな……。私の方は召喚士という部分が強く印象に残ってしまっているみたい。
「どうしてガロテに来たの?」
「契約者と、儀式で回っていたんだよ」
彼女からの陽気な質問に答えると更に表情が明るくなる。
「わぁぁぁ!契約者様も来ているの!?私も、召喚士になれる?」
「アイナちゃんは契約の儀式、まだやっていなかったの?」
これくらいの子ならギリギリ儀式をまだしていない人もいる、かも。アイナちゃんは力強く頷いてくれた。
「ねぇ、契約者様はいつ儀式をしてくれるの?夜!?」
「え?うーん……。今日着いたばっかりなんだ。だから……たぶん、明日か明後日かな?」
この町でも儀式はカスコに向かう事を優先して帰り道に行う、なんて話は聞いていない。だったら執り行うと思うんだよね。少しでも路銀は必要だし。
「楽しみ!召喚士のお姉ちゃん、教えてくれてありがとう!」
不確かな情報だけどアイナちゃんはこうしてはいられないと子犬を抱えて公園の出口へ向かう。
「私、召喚士になる!お姉ちゃん、レブ、フジタカ!またね!」
無理矢理抱っこしている子犬がアイナちゃんの腕の中でもがいていた。翻弄されながらもしっかりと抱え直してアイナちゃんは走り去っていく。
「またねー……ってか」
フジタカがは私の後ろでしっかりと愛想を振りまいて手を振ってくれていた。アイナちゃんが見えなくなると手を下ろしてしまう。
「なーんか、どっかの誰かさんの小さい頃ってあんな感じだったんだなーって容易に想像できるよ。な、デブ?」
「さぞ愛らしかったのだろうな」
話を寄越されたレブの反応を見るに……。
「え?私?」
「他に誰がいんだよ」
呆れた目で見るフジタカにレブも同意している様だった。
「私……あんなだったかなぁ……?」
召喚士を見ただけで居ても立ってもいられない。契約者が来るなんて知ったらそわそわして落ち着く事もできずに浮かれて町を走る。……あぁ、私かも。
「あんなに無邪気で可愛い子ではなかった、かな」
私が召喚士を夢見たのは自分がビアヘロに襲われたからだ。もしかしたら、さっきの短い時間に聞けなかっただけでアイナちゃんも似た経験をしているのかもしれないけど。
「安心しろ。今の貴様は十分に……可愛い」
「……あ、ありがとう」
礼をいう所じゃないかもしれないけど。レブに言われて悪い気はしない。
「俺、邪魔か?」
「違うってば!」
そこは空気を読まないでよ。この場で気を使われて二人にされた方が……。って、それはニクス様とカルディナさんも同じなのかな……。でも、本人には聞けないし。




