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無用の長物。

 「そんで?お前らはお疲れのところにわざわざ出て来て、ブドウ食ってるだけかよ」

 「あ!」

 突如後ろから聞こえた声に私は立ち上がる。その間に声の主、フジタカが前に回り込んできた。

 「フジタカ……」

 「なんだよ、俺を探しにでも来たのかと思って話し掛けたのに」

 そうだった……。フジタカの後姿、見てたから探そうと思ってたんだ。レブと話していてすっかり飛んでいた。

 「どうやら違うみたいだな……」

 「う……」

 その通りです、ごめんなさい。

 「散歩、してたの……?」

 「そんなとこかな」

 こちらからも出掛けた動機を聞くとフジタカは服のポケットに手を入れて答えた。

 「だったらその剣は要るまい」

 「う……」

 私と同じ反応をしてフジタカが呻く。レブが見ていたのはフジタカの背負ったニエブライリスだった。

 「特訓?」

 「そんなんじゃねーよ。俺だって疲れてるし」

 言って、フジタカが長椅子に座る。私も二人の間に腰掛けた。椅子がミシ、と軋んだ音を立てたのは私のせいじゃない。たぶん、大の男が二人既に座っていたからだ。断じて私が太ったとかではない。

 「少し素振りできそうな場所を下見してたんだ。あとは……」

 フジタカがニエブライリスの柄を掴む。

 「コイツを握ってる時間を増やしたい。そうしたら、俺の無意識がコイツを自分の一部と認識して……間違って消したりしないんじゃないかな」

 試せるならば手近な事から何でも試したい様子だった。でも、私もフジタカの考えには賛成する。

 「それ……」

 「考えが甘い」

 賛同する前に反対から声がした。レブはブドウだけを見て口に詰めながら言った。

 「どこがだよ。そんなスッパリ斬るんだったら何かお考えがあるんだろうな?」

 「無論」

 レブはブドウをもぐと口に入れる前にフジタカを見た。普通に話せば良いのに、その態度だと睨んでる様に見えるよ。目付き鋭いだけなんだろうけどさ。

 「その考えは犬ころ自身があのナイフに触れても消えないという自覚があって、初めて可能性を得る。もしも最初から消えるかもしれないなどという不安を拭い切れていないのなら、試す価値も無い」

 「あ……」

 フジタカが握る事であらゆる物を消せるナイフ。それをフジタカが自分に使ったら……。

 「………」

 やっぱり、そこは考慮していなかったみたいでフジタカは黙ってしまう。彼自身が日中、自分にナイフを突き立てても何も起きないかどうか。そんなの今の段階では試す事もできない。

 「……ちぇー。思い付いたの、これくらいだったのにな」

 切り替えたのかフジタカは苦笑して頭の後ろで手を組み背もたれに体を預ける。ニエブライリスも外して脇に立て掛けた。

 「近道をしても無駄だ。道を阻む崖を越えたいのなら、翼か越えるだけの脚力を身に付けてからにしろ」

 「でなきゃ地道に歩くだけ……。急がば回れって事な」

 レブが伝えたい事はフジタカに伝わっていると思う。だけど、今は歩こうにも目の前がもやもやと霧に包まれているんだろうな。

 「今なら使いこなせると思ったら、その使い方を試せってポルさんは言ってくれた。試そうにもなぁ……」

 心当たりがあれば私だってフジタカに何か指針を示したい。でも率直に言って今フジタカがナイフを誤って使って、万が一にでもいなくなられでもしたら戦力は大きく下がる。

 「堅実に進んでいるとでも思えればいいんじゃない?ね?」

 何日か前だって、チコの鞄を直してくれたんだし。

 「何も急げ、焦れとまでは言わん。その調子で進むのを周りと、そして自分が許すか。それだけだ」

 「おう。やってみるよ」

 フジタカは諦めてはいないみたいだ。その闘志は多分、フエンテにいるお父さんに向けられているんだよね……。

 私達だってカドモスとまた戦う事になる。ココをあんな扱いにした連中が裏で得体の知れない事をしているのなら、私達召喚士が止めないと。

 「……戻ろうか。やっぱりしっかり寝てゆっくり休むのも必要だし」

 「召喚士の意に従おう」

 「じゃ、とりあえず俺も」

 レブとフジタカが同時に立ち上がる。私もちょっと遅れて立つとだいぶ足の疲労も取れていた。でも歩くと痛むんだろうなぁ。

 「あ、あの……」

 「え?」

 宿に戻る道を確認しながら歩き出そうとした矢先、別の声がこちらに向けられた。見れば、知らない少女が長い丈の白いスカートの裾をキュッと握り締めながら私を見上げている。

 「……私?」

 確認の意味を込めて自分を指差しながら黒髪の少女に尋ねると彼女は頷いた。

 「お姉さん、召喚士です……か?」

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