名乗りを挙げて。
ウーゴさんも同意するがフジタカはまだ腑に落ちない様で首を傾げた。
「だったらなんで俺とデブはすぐにカスコで解剖されたりしなかったんだ?」
「そんなに危険な場所じゃないからね……」
変な想像しないで欲しい。技術の取入れはあくまでも客人に同意を得てやっている。無理矢理に盗み取ったり、まして呼び出したインヴィタドの解剖なんて。
「答えは単純。田舎もんだからだよ」
チコが半ば投げやりに言って歩を進める。フジタカを追い抜いて荷物を背負い直した。
「トロノからでもガランに情報が届くまで時間がかかる。更に、ガランからトロノに戻るまでにも時間が掛かる。どうかしらね、トロノのフジタカと言って通じる召喚士ならいるかもしれない」
カルディナさんはフジタカだけに言うものだから私はレブに向き直る。
「レブの名前だって、もしかしたら……」
「気遣うな。何とも思っていない」
レブってフジタカの活躍は楽しんで見ているのに、自分の活躍を主張しようとあまりしたがらない。本人は話題の影の立役者だったりするのに。あまり人に知られたくない、とまでは言わないけど……。
「じゃあティラドルさんの名前ならどうかな?」
「………」
レブの目がカルディナさんの方を向いた。
「緑竜人を召喚したというソニアの話なら、早い段階でガランに届いていてもおかしくないでしょうね」
あの頃のレブは竜人として認識すらされていなかった頃かな。そもそも、レブの姿が今の状態になったのだって今回の契約行脚が始まってからだ。なのに最初からレブはこの姿だった様な気さえしてくる。私にそこまでの力は無かったのにね。
「ティラドルさんの事、やっぱり気になるんだ?」
「竜人だからなどと、過剰にもてはやされていつか醜態を晒す奴の姿を想像しようとしただけだ」
そんなティラドルさんをレブが颯爽と助ける……なんて姿は思い浮かべられない。素直に心配って言えば良いのに。
それから三日後、カスコまでの行程途中に私達はガロテという名前の町に到着した。シタァに比べれば観光者の量は半数以下。この先は到着しただけで楽しい土地、とは言えない。何かしら夢や野望、目的を持って訪れた目力を持つ者が主にカスコへ向かう途中に立ち寄る町だ。規模はトロノと大きく変わらない。人口は若干少ないくらいだった。
「遠い……!」
ガロテの宿に着いて開口一番、チコは宿の受付に荷を置いて声を洩らした。
「遠くに町が見える!って思ってからが長いんだよな」
開けた視界が仇になって私達は遠くにガロテの姿を臨みながら歩いていた。夜になれば町の灯りも見えていただけに、着きたくても着けないのはもどかしかった。まして、夜になると冷え込みも激しかったから雨風を心配せずに建物の中で眠りたい気持ちは募る一方。今日はぐっすり眠りたい。
「私とザナさんは一緒の部屋でいいでしょう?」
「え……」
部屋割りを決めるカルディナさんに口が反射的に動き、それを理性で止める。一瞬の間でもカルディナさんは見逃さないでこちらを見る。
「どうかした……?」
「いえ……。それで、お願いします」
どこも物騒ではないと限らないから自分のインヴィタドと一緒の方が良いのではないかとか、それもあるけど考えていたのは全く違う事だった。だけど私は了承する。
本当は、ニクス様と同じ部屋の方が良かったんじゃないのかな。一緒に過ごす時間がただでさえ限られているんだし。きっとシタァの路地裏から一転して、この数日は多少会話があるだけだったと思う。こんなに近くにいるのに、一緒になれないなんて辛いんじゃないかな。トーロだけなら、トーロが席をわざと外したりもできるんだろうけど、今は男性陣全員を引き付けるなんてまずできない。
私情を抑えて言ってくれているのを無理に変えるのも悪い。私は何も知らない事になっているんだし。
「………」
「ザナさんも疲れた?」
部屋に通されても私は会話すらぎこちなくなってしまっていた。あの二人を見た後に自分に何ができるかなんて、考えるだけ野暮なのだろう。そっとしておくのが一番。だけど態度に意識した状態が野ざらしで出てしまっている。
「船旅じゃないだけ気分は良いです。少し空気は湿ってる気がしますが」
「夏場は蒸れるけど、確かにトロノやセルヴァとは空気感が違うかもしれないわね」
カルディナさんは微笑み椅子に腰掛けると、同じく座る様にもう一つの椅子を勧めてくれる。私も自分の荷物を部屋の隅に置くと窓際の椅子に腰掛けて外を眺めた。足の火照った筋肉の熱がじんわり上半身の方へも上がってくる。




