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残された力。

 「今のって手応えはどうだったの?」

 私は先に行くフジタカに追い付いて顔を見る。さっき、いつもと違う動きをしたのが気になった。

 「初めてにしちゃ上出来、かな。自分でも思った様にナイフが動いてくれたと思う」

 魔法に限らず、何かを行うのなら成功している姿を思い描くのが大事だ。フジタカも着実にナイフの使い方を身に付けようとしている。

 「さっき言ってた試せる範囲ってのがちょうど来たんだね?」

 「たまたまだけどな」

 フジタカのアルコイリスが発動して見せた能力は今のところ、さっきのを含めて五つ……かな。どれも頻繁に見てはいないけど大事な場面で使っている。

 まずは何でも消す灰色。次に見せたのはベルトランとの戦いで見せた部分的に消す赤、セルヴァに出たジャルを角だけを残して消した青。そしてレパラルで見せた徐々に消していく緑と壊れた部分を消した黄色。緑の力はまだ慣れていないと言っていたけど……。

 「今の力、疲れたんじゃないの?」

 「え……」

 フジタカが身構えてこちらを見た。その反応に私は確信する。フジタカもナイフの力を使って消耗しないわけではないと。

 「胸を叩いてたでしょ?もしかして痛んだんじゃないのかな、って」

 急にフジタカが振り返れば、皆の視線も集まっている。気付いてない人なんて、誰もいない。口にしなかっただけだ。

 「気付いてたのか……」

 「うん。私もよく同じ目に合うから」

 気になっていたのはフジタカがナイフを一振りした後に胸を叩いた事。普段ならしない仕草に違和感を拭えなかった。

 「経験者は違うな、やっぱり」

 苦笑したフジタカに私は胸を張る。

 「伊達に何度も気絶してないよ」

 威張る事じゃないんだけど。だけど、だからこそ彼の状態は知っておかないと。

 「今も……痛む?」

 「いや、ナイフを振るった一瞬だけだった。でも、痛むのは初めて……かもしれない。レパラルの時も違和感はあったんだが」

 フジタカの喋りを止めたくなくて顔を覗き込むだけで続きを促す。

 「なんか胸がもやもやして、痒かった。これ以上続けたら危ないって思ったから緑は止めたんだ」

 「でも、ずっと使ってたよね?ナイフ」

 あのライさんが壊し尽くした大量のマスラガルトとスパルトイを消したのはフジタカだ。緑の力や、さっきみたいな一度の能力行使で胸が痛むのなら、普通は他の力でも影響が出そうなものだ。

 「灰色……いつも通りに使う分には変わらないんだよな。別に胸も痛まないし」

 そこの違いが分からない。あれだけの数を一つ一つ消していた時には何も起きずに、今回は一度使っただけで胸が痛いなんて。胸が痛むという事は魔力を消費したという事だ。負担の掛かり方が違う……?

 「制限を掛けられる事に弱いのかもしれぬな」

 頭がこんがらがってきたところで振り返り、レブを見ると彼の意見が一つ。フジタカも思い当たる節があるのか声を上げる。

 「あー……。それも調整するっていうのに慣れてないからなのか?」

 「自分の身だ。自身で把握しろ」

 レブもトーロもフジタカの力が特殊過ぎて的確な助言ができないんだ。

 「分かんねぇから聞いてるんじゃねーか……」

 一番困っているのはフジタカ本人だ。手探りで自分の力を把握するにも、今は自分の力を分割して役割を決めるので精一杯なんだ。

 「フジタカ。アルコイリスってあと何色が残っているの?」

 「あ?ちょっと待ってな……」

 レブに口を尖らせていたフジタカだったがナイフを取り出して柄の宝石を回す。

 「……えー、あと二つ……かな」

 「二つ……」

 合わせて七つの力、か。残りの二つにはどんな役割をフジタカは与えるんだろう。

 「カスコでさ、フジタカの力の仕組みが分かるといいね?」

 「そんなピンポイントで分かるもんか……?」

 カスコにはこの世界のモノ、そしてこの世界が取り入れた異世界のモノが集まる。だったらフジタカとナイフの力によく似た何かがあるかもしれない。もしくは、カスコの学者さんがフジタカの力を見る事であっさりと謎や理屈を解明してくれたりして。何も必要なのは同じ武器だけではない。知識だって力と成り得るんだから。

 「でも、フジタカ君の力を知れるとしたらカスコを置いて他にないとは思うわ」

 どちらかと言うと直ったチコの鞄がどうなったか様子を見ていたカルディナさんもしっかり話は聞いてくれていた。チコも何度かわざと負荷を掛ける様に軽く引っ張っていたが顔を上げる。

 「珍しいもんはまずカスコ、って感じしますもんね」

 「そういうもんか……?」

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