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黄急手当。

 「おいフジタカ!冗談は……」

 「いいから見ててくれよ……」

 フジタカも緊張しているのが伝わってくる。だけど彼はアルコイリスを黄色く見える様に合わせるとナイフを切れ掛かった革にあてがった。

 「おま……え!?」

 「……俺に任せてくれ」

 遂にチコも怒鳴ったがフジタカはそのままナイフを横に薙いだ。その時、強い風が吹き抜ける。一瞬目を細めた直後には、それは起きていた。最初に気付いたのはチコだ。

 「な、な、な……!直った!?」

 「……よし」

 フジタカはトントン、と二度自分の胸を叩くとアルコイリスを灰色に戻して刃を畳む。その姿にはレブすらも目を見張っていた。

 「何をしたの、フジタカ……?」

 「うーん……」

 ナイフを完全にしまってからフジタカは唸った。しかし皆が聞いておきたい話の筈だ。

 「傷を……消した、の?」

 理屈は分からない。だけどフジタカのナイフでできる事は何かを消す事だ。私が思い付いた事を口に出すとフジタカは尾を振り上げてから頷いた。

 「そう!なんつーか……うん、できそうって思ったんだよな。試す切っ掛けがなかったんだけど」

 トーロやライさんからもおぉ、と感嘆の声が洩れる。でも、彼がナイフ一振りで行ったのはそれだけの反応で留まって良いものではない。

 「お前、自分が何したか分かってるのか?ナイフ振って鞄直してんだぞ?」

 チコが鞄の具合を確かめながらフジタカを見上げる。当の本人はその大きな耳を掻いて苦笑するだけ。

 「俺は直したつもりはないんだ。どちらかというと壊れている部分を消したら繋がった、って言うか……」

 「だーかーら!なんで壊れた部分を消すと繋がるんだよ!塞ぐってのは立派な復元行為になるだろ」

 フジタカは自覚と言うか、理解はしないで直感でナイフを使ったらしい。そしてそれに対して抵抗も持っている。だから迂闊にそのナイフは消すだけじゃなくて直せるとは言いたくないらしい。

 「それは、俺やライの傷も消せるのか?」

 トーロやライさんの姿を見れば、所々に裂傷の痕が屈強な身体に刻まれている。もしフジタカの力が治療行為にも活かせるとしたら前衛の負担が確実に減る。それに、癒しの妖精を召喚士が用意する必要だってなくなるんだ。

 「それは無理だと思うな……。無理って言うか……危ないだろ」

 だけど実際そこまで上手く話は進まない。フジタカはいやいやと首を横に振った。考えてみれば医師でもないのに人へ刃を入れて治療なんて、相当に高度な技術を要求される。

 フジタカは確かに鞄の革紐を直して見せた。しかしそれは比較的簡単な物。もしかしたら、彼がナイフを自在に扱えれば……例えば、腫瘍だけを摘出とかもあっという間にできたりして。少なくとも今のフジタカが人にあのナイフを差し込むなんて、誰もその後の結果を想像すれば怖くてできないだろう。一番よく分かっているのはフジタカ自身だ。

 「……まず、鞄が直せた。それで良いじゃねぇか」

 「……そりゃあ、な」

 チコの手を取り立ち上がらせるとフジタカは背を向け歩き出した。話すつもりはない、と言うより聞かれても困るんだろうな。

 「レブはどう見る?」

 黙ったまま、しかしずっとフジタカから目を離さなかったレブの隣に立つとようやくこちらを見下ろした。

 「あの芸当は私には真似できんな」

 褒めてる……?違う、もっと得体の知れないモノを見た様な目だ。

 「どういう仕組みか分かるの……?」

 私の質問にレブは目を伏せていや、と答える。

 「そもそもあのナイフの出所が分からん。父親の形見……それすらも眉唾物だ。あの犬ころの手元にあって正しいのかも含めて、な」

 私はフジタカの背中を見る。わざとこちらを見ない様にはしているものの、未だにナイフの話題で持ちきりの私達に耳だけを向けていた。聞こえてはいるだろうな。

 「でもフジタカにはあの力しか無いんだよ。危ないと思うから、気を付けて使ってる」

 「それが裏目に出なければ良いがな」

 レブはあのナイフを警戒している……?たぶんあの切っ先がこちらに向く事ではない。あのナイフが引き寄せる事象を言っているんだ。事実、フエンテなんて大物があのナイフを狙っているのだから。

 「レブでも用心するナイフを持ってるフジタカって凄いんだね?」

 「条件はあるが、私の数倍の体躯をした巨人を触れるだけで消し去れるのだ。操者はともかく武器としての価値は屈指の物だ」

 「聞こえてんぞ、デブ!」

 フジタカがやっとこっちを向いた。私は手を挙げて謝るけどレブはそっぽを向いてしまう。使えるのはフジタカだけなんだから、彼も十分に凄いんじゃないのかなぁ。

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