我欲しかなかった過去。
「大人の貫禄ってのを俺も身に付けないとな」
フジタカが今後の路線を定めた様だけど、それがこの町で出会いに繋がるとは限らない。だって、ほとんどの人にはもう既に相手もいるんだもの。私はふと、話題に加わろうとしないカルディナさん達の方が気になった。
「カルディナさんってシタァは初めて来たんですか?」
「一度だけかしら。カスコに用事があって。その時は通り過ぎただけ」
トーロも知らなかったらしくカルディナさんの方を向いて鼻を鳴らした。
「その時はブラス所長のお使いで、一人旅だったけどね」
その方が身軽、という事は分かった。だけど私は疑問を口にする。
「今更ですけど……私達みたいな召喚士の方が珍しいんですか?」
「ザナさんみたいな……って?」
私達にとっての当たり前と、他の人達の当たり前。その違いに気付くのは、外の人に会ってからだった。
「インヴィタドを連れて歩く様な召喚士です。私達には全員……いるじゃないですか」
チコの事、フジタカの事をまた言いそびれる。気付いた様子は無くカルディナさんはグラスを置いた。
「魔力の維持が難しいからしない者が多いのも事実、かな。割合としては三割くらいしかいないでしょうね」
「やっぱり……」
最初の頃、私がなりたいと思っていた召喚士も今とは違っていた。知能のある者と交渉するよりも異界の炎でビアヘロを焼き、岩塊を宙へ呼び出し敵へと落とす。その方がまだるっこしいやり取りは無いと思っていた。そしてその方が自分で戦っている、という感覚も強く得られると信じていた。
「常に魔力を消費した状態だから私達はきっと、他の召喚士達と比べると長い間本当の魔力が全快状態にはなっていないの」
「はい……」
足りなくて死ぬ、なんて極端な状態には普段は陥らずとも、その感覚は知っている。この胸に小さな穴が開いていて、そこから私の魔力がレブへと流れ出ていた。今ならそれを自分で広げ、逆に狭める事もできる。
「魔力の消耗は召喚士自身の体力にも影響を受ける。だから年齢を重ねた召喚士、自分で力を持った召喚士程、特定のインヴィタドを連れなくなるの」
それなら私も知っている。フェルト支所の所長、テルセロ所長やアスールのパストル所長もインヴィタドは大抵自分の必要な時にしか呼んでいない。ブラス所長に至っては、見た事も無かった。
若い召喚士の方が話せるインヴィタドを連れている、と言われればソニアさんもいるしトロノにも何人かいた。ルビーだって、フジタカみたいなインヴィタドを召喚したいと言っていた時期もあったし。ウーゴさんの方が少し異例なのかな。
「慢性的な肩凝りはトーロのせいじゃないかと思う日もある、なんてね」
「それはカルディナさんの胸が重いからでは?ソニアさん程ではないにせよ」
魔力の消耗で起きる疲れや体調不良を茶化して話したカルディナさんにライさんから突然の指摘。それは冗談で済まされなくなってしまう。
「………」
「あ、いや……感想だ、気にしないでくれ」
カルディナさんに睨まれると傷を隠す様に手で覆い、ライさんは顔を背けた。ウーゴさんも苦笑して助け船は出さない。
「酷使しておいて、人のせいにするとはあんまりじゃないか」
「頼りにしているってば」
こうして思うと、カルディナさんもどちらかと言うと特定のインヴィタドを連れる前提の召喚士ではなかったんだろうな。今みたいなやり取りができるまでトーロとの関係が変わったのも、カンポに向かう時だったし。
「………」
チコはフジタカの方を見ようとしない。チコだって、最初からフジタカを振り回すつもりでいたのではない。私と同じ、目の前に現れたから一緒にいたんだ。
「……ブドウの皮はついていない筈だ」
「ううん、ただ顔を見てただけ」
だけど、今ではそれが良かったと思える。決して維持は大変でもこちらから指示せずとも考えて戦ってくれるとか、知恵や技術を貸して人間では扱えない魔法を駆使してくれるからではなく。
「そうか」
私の視線を気にせずレブは再びブドウに手を伸ばす。私からすれば、レブは最大の戦力。間違えないでほしいのは、だから身近に置いていたわけじゃない。
どんどんと緩やかに流れる今日までの時の中を一緒にいた。私はレブと過ごすそんな毎日を失くしたくないと思っている。これからも、彼が望んでくれるなら。こちらの私意で強制的に召喚した私を許してくれると言うのなら。専属契約を結んでくれた彼に私だって力を示して応えたい。




