育まれた絆を見せ付けて。
ガラン大陸の入り口にあたる港町、シタァは私達が上陸する前からその賑わいを感じさせていた。活気に溢れている、と言えば聞こえがいいがコラルやアーンクラ、アスールみたいな船乗りや商人の出す雰囲気とはまた違う。
「なんか、さぁ……」
上陸して今日の宿を確保。シタァの安い地図を買って、それを別の紙にそれぞれ写す。買い物を手分けして行うためだ。
外に出た途端、フジタカは町の違和感に気付いたらしい。だいぶ回復したチコやウーゴさんも少々落ち着きがなかった。
町を行き交う人々が漂わせる賑わい。それは町自体の活気ではない。周りにいるのは大半が観光客。しかも、男女二人で一組みが基本。
「シター……シタァ、だっけ?この町、何なんだ?」
「うーん……」
宿の前でぽかんと口を開けながらフジタカは仲睦まじそうに腕を組んで歩いている男女の背中を見送り、私を見た。あまり気が進まないけど、聞かれたからには答えないと悪い。
「シタァは岬に大きな結婚式場があるんだ。そこ自体が愛し合う二人に幸せを呼ぶ観光名所になっていて、式を挙げなくても夫婦で二人の幸せを願いに来たりするの。砂浜で拾える貝殻は恋人達の絆を包み込むお守り……なんだって」
「あぁ……オーケー、もういい。察したっつーか……うん」
フジタカは手を挙げて私の説明を中断させた。大まかな部分は聞いてもらったが、恐らく今目に入る男女達の八割はシタァの式場目当てで間違いない。
「どこの世界でもそういう場所ってあるんだなぁ……」
敢えてじっと見る事はしないでフジタカは周りをぐるりと見回した。私も逆の動きでシタァの街並みを眺めたけど……うん、不思議な光景だった。
老若男女あれどどの人達も二人で行動している。その中にインヴィタドみたいな異世界の存在がほとんど見当たらない。私達がとても浮いた集団に見えた。
「女の子にとってこの町は誰もが憧れる場所なのよ」
カルディナさんが地図を書き写し終えて私とチコ、ウーゴさんに渡してくれた。
「それをそんな呆れた目で見ないでもらいたいわ。ねぇ?」
「え……」
カルディナさんは私の顔を見て言ったけど、私はちょっと……共感できなかった。
「ガランに来る事があるとまでは思ってなかったので……どうでしょう」
このオリソンティ・エラの中でも有名度で言えばこのシタァはかなり上位に入る、とは知っている。地図帳でどんな場所か分かっていたから。
だけど私がなりたかったのは召喚士。こういうのに興味が湧く以前の問題だった。どちらかと言うとセルヴァからも行けない距離ではない都会、トロノでの暮らしに憧れてた、かな。旅は地図帳で終えて、現実は現実で受け止める。我ながら寂しい考え方だったかも。
「確かに、そうよね……。今の状況を考えたら……」
カルディナさんも岬の方を見てから肩を落とした。当面は首都のカスコを目指し、必要度合いを見ながら契約の儀式を行っていく。シタァは子どもを成しそうな人々は多くても、定住者がそこまで多くないからどうだろう。
それを知る為にもまずは自分達の目的を果たさなばならない。観光地で浮かれたり、幸せそうな二人を妬んでいる場合じゃない。
「それじゃあ手分けして。あまり遅い時間にはならない様に」
「何かあれば魔法でも何でも使って位置を知らせろ。騒ぎになっても、何か起きてからでは遅いからな」
最後の注意をカルディナさんとトーロから受けて私達は解散する。召喚士とそれぞれのインヴィタドが一組で買い出し。ニクス様はカルディナさん達と同行した。
「ねぇ見て……」
「あぁ、召喚士らしいな」
「凄いの連れてるね。何か催しとかやるのかな?」
「だったら見たいな!聞いてみようか?」
……町を歩くとレブを見た人達が次々と物珍し気に反応してくる。前、アスールに向かう途中で立ち寄ったファーリャでも同じ事があったけどあの時とは数も違う。あちこちから飛んでくる視線は気にならなくなったけど……。
「でも近くにビアヘロが出たのかな?」
「うへぇ、だとしたら嫌だな。しかもあんなの連れてるんだぞ?すげー凶暴なビアヘロが出たのかも」
「えぇ、やだぁ……」
「大丈夫だって。そんなのビアヘロが出ても、お前だけは俺が守ってみせるからさ。この命に代えても」
「そんなの駄目!私を置いていかないで!」
……聞こえてくる中身の傾向が違う。こちらは何もしていないのに、二人の絆を深める材料やネタにされている様な気がした。一人だったら黙っているんだろうけど、二人以上でいるからつい目についたモノを話題にしちゃうんだよね。




