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夜を薙ぐ船。

 陽がたっぷりと昇ってから私達は出立した。その際にティラドルさんへの手紙はカルディナさんがソニアさん宛てに送って届けてもらう話は済ませてある。

 結局一日中私は陽が沈むまではレブに抱えられて潮風に晒されてどことなく肌がべたついた。最初は珍しがってフジタカも鳥と一緒になって飛ぶレブと私を見ていたが、気付くと船内に戻ってしまう。チコが回復するまでに飛び回りながら骨折を治したと言うのが当たり前なんて信じられない。

 「波状攻撃ができる人材がいないのだ、押し切られる心配はないな」

 夜になれば風が冷たいから、と私が言ってやっと甲板に下ろしてくれた。見張る必要がない海をただ見下ろす。考える事は山ほどあった筈なのに自然と凝り固まった頭の中は晴れていった様に思えた。

 「すっかり治ったんだもんね」

 一か月が一週間まで短くなったなんてものではない。あのレブが怪我をした……それだけでも衝撃だったけど治るのも人間からすれば尋常ではない。

 フエンテに狙われていると言っても一気に襲ってきたのはせいぜい三人の召喚士。各個撃破を狙われた事は今のところない。だって、最初から私達は固まって動いていたから。

 レブが弱っているところに再度フエンテが……例えば、ベルナルドが襲ってきたら。恐らく私の力ではレブを守れない。だけど、そんな事態に陥る気配は無い。海の天気は穏やかなままだった。

 私ですら思い付く内容を相手が考えていないわけはない。なのに実行しない。その理由をレブは先に言ってしまったのだと思う。

 「門の管理が忙しいのかもしれんぞ」

 「少数精鋭、って言うのかな……」

 新しい顔を幾つか見た。それにしても私達はフエンテの全貌をあまりに知らない。わざとロルダンとベルナルドだけが出てきて、裏ではもうあちこちにフエンテがいるとか。

 「自分が世界を管理しているなどと自惚れるおめでたい連中だ。数は多くあるまい」

 「こっちからすれば好都合だけどね」

 フエンテは契約者無しでも召喚士としての素養を持った人間。その目的は異世界と繋がる門の管理。契約者に魔力線を解放されようが、その素養は左右されないのかな。私は間違いなく契約者に……ニクス様に儀式を行ってもらったのだから。

 「あのさ、カドモス……に何をしたの?」

 船縁に座って足を海上に向けて揺らしているレブの顔を覗き込む。星明りだけでも彼の鱗は反射して輝いていた。

 「腹に拳を叩き込み、雷を流した。それでも気絶しかさせられなかった」

 それがレブにできた加減の限界だったのだろう。殺したくない、と言ったレブの姿が脳裏をかすめた。

 「じゃあ今頃……」

 「とうに回復している。動けないとすれば、あの召喚士だ」

 ロルダンは消え際にライさんが投げたナイフに刺された。致命傷にはならないだろうけど老人は治癒が遅い。

 「魔力の回復って……」

 「肉体と同じだ。鍛錬次第ではあるが老いてくる。筋力よりもその流れは緩やかだが」

 召喚士が大成するのはやっぱり才能もだろうけど普通は身体が思う様に動かない年齢に差し掛かった人が多い。ロルダンも年齢は分からないがあの状態になるまで召喚術を高め続けていたとすれば……。

 「あれだけのトカゲ男を用意して維持するのは骨が折れただろう。しかも、器用に命令まで出していたのだから消耗は著しい」

 「それに怪我までしたから……?」

 レブは水平線を見ながら頷いた。

 「賢いのは、足りない戦力をスパルトイで補っていたところだ。だから一人であの数を用意できた」

 「どっちも多かったよね……」

 様々な要因が私達にとって有利に働いたけど、一歩間違えたらライさんもやられていた。もう数匹いただけでも、ライさんは動けなくなっていたかもしれない。最初にレブが脅しで倒していた分がいただけ違っていたのかな。

 「………」

 「カドモスの事、気になるの?」

 顔をこちらに向けたレブに表情は無い。

 「スパルトイをあれだけ用意して自由に使わせていた。あの光景に酷く抵抗を覚えた」

 「フエンテだからって全部を知ってるわけじゃなかったよね」

 一度レブが退けたと言ってもあの気迫を間近で浴びたのだから、簡単には忘れられない。話の通じる相手だった分だけ、敵意を向けられるのがこんなにも堪えるなんて。

 「人を騙す嘘を見抜けぬ男ではない。単に知らなかっただけだな」

 「レブの事、知られたらまずいと知ってた……のかな」

 思い付きで言ってみたけど、だとしたらレブとカドモスが同じ世界の出身と知っている人がいた……?それとも同じ竜人だから伏せていただけ……?

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