時に逆らいたくて。
「自分は過激派ではない、と言っていましたが……やっている事は同じ、若しくはもっと質が悪い。手段を選ばなくなり始めた」
俯くカルディナさんの横でニクス様も目を伏せる。
「ガランは規模が大きくて人も多いですが、その分人が住んでいない場所も多い。……戦う事になれば、今回の様に人を巻き込まずに済ませたい」
「もう二度と……あってはならない」
もちろんココを失ったから、という理由で行動している。でもライさんも根底ではココの様な被害者を増やしたくないんだ。だからあそこまで全力で……戦っている。
「だったら情報を収集するだけじゃない。発信していくんだ。そんな秘密主義者の塊、広められたらまずい事ばっかりなんだからな」
フエンテは自分を知る者の命を狙った事があった。でも、知る者はごく一部。だから口封じをしてしまえば広まる事は無い。
だが、トロノの召喚士達だってそうだ。皆が知ってしまったからと言って皆殺しにされる事は今のところ無い。
そうなれば、相手はこれ以上の情報拡散は嫌がる筈だ。だから私達は敢えてその道を進む。奴らとまた出会う為に。
「妨害……してきますよね」
「野放しにする理由はないんだろ?」
パストル所長に聞き返されて私は思い返してその通りだと思う。だって、狙い狙われる理由はあっても、決着は何一つついていない。
「放っておくってんなら、こっちから会いに行く」
レパラルでの片付けを終えてからフジタカに落ち着きがない。あんな場面を見たから、かな。
「……じゃ、予定通り明日の朝に出港だ。こっちの人員が少ないから積み込みで多少は遅れるかもしれねぇが……」
私達を見回して所長は頭を掻いた。
「……船で寝てるか?全員分の部屋はねぇな……」
召喚士とインヴィタド、そして契約者。フジタカは厳密には違うけど……ともかく、九部屋なんてある建物じゃない。まして、所長も入れれば十人。席を外してはもらっているけどアスールから来た召喚士も何人かいる。今はフジタカと交代してオンディーナを呼んで血を洗い流しているんじゃないかな。
私達は昨夜で休んだし、今日来た人達を優先させて休ませたい。だけど体調や体質からしてあまり船に乗りたくない者も数人。
結果として、私とレブ、フジタカとニクス様、そしてチコとウーゴさんは駐在所で休ませてもらう事になった。カルディナさんとトーロ、ライさんは特別措置という事で既に乗船し休んでいる。ライさんを陸地で休ませたいとウーゴさんは言っていたが、本人から断られた。休息を優先させたいのなら船でも十分だと。
「一人になりたかったのかな」
「召喚士に気を遣える余裕を受け入れられていないのだ」
窓の外を見れば海に浮かぶ船が一隻。レブはベッドに座って床の一点を見詰めている。
「ウーゴさんの船酔いの話?」
「私にも船酔い体質の召喚士がいてな」
「悪かったね」
ぼふん、とわざとらしく音を立ててレブの隣に腰掛けた。自然と尾の位置を座れる様にと動かしてくれたと思えば、座った途端に私の膝の上に移動する。
「怪我、まだ痛む?」
「船旅の間に治る」
やっぱり、動けると言っても完治とは違うんだ。まだ本当は痛んでいるのかも。
「……ライさんの余裕を受け入れられない、って何?」
話を戻すとレブの目がこちらを向いた。
「時の流れとは、人の悲しみを癒す最高の薬だ。特効性はそれぞれだろうが、時流に癒せぬ悲しみは……無い」
カドモスに拳を叩き付けられた胸にレブが手を置いた。
「あの獅子は癒して欲しいと願っていなかった。だが、生きている以上悲しみも怒りも冷めていく。望もうと、望むまいと時間が進む限りはな」
「ライさん……。ココ以外の事を考えている自分に悩んでいるの?」
「………」
レブは目を伏せて頷く代わりとした。
「そんなの……薄れていくのは当たり前だよ」
「そうだ。だから悲しみが癒えぬ様に傷口には塩を塗っていた。わざと声を張り、暴れて、ずっと落ち込んでいたかったのだ」
死にたがっているとレブが言っていたのはこの事だったんだ。その生き方を貫こうとする自分と、どうしても何かの拍子に笑って楽しみ、気を取られた瞬間にライさんは自分自身のズレに心が悲鳴を上げてしまう。
「折り合いをつけられない、不器用な男だ」
レブは一度自分の胸に指を滑らせる。気持ちの切り替えを行っているライさんは何度も見てきた。だけどそれも実際は一人で抱えて、できていなかったのかもしれない。
「ウーゴさんじゃ、一緒に抱えられないと思う?」
「召喚陣を破くという行為はインヴィタドへの解雇宣言だ。どういう理由があっても、インヴィタドの意思に関係無く行った時点で快くはあるまい。未遂だろうとな」




